
任意売却と通常の不動産売却はどこが違うのでしょうか?
任意売却も通常の不動産売却も不動産を売却することに関しては変わりありません。
任意売却と通常の不動産売却で一番違うのは任意売却であれは住宅ローンの残債分を切り離して売却できるということです。
通常の不動産売却では住宅ローンの残債分を切り離して売却することはできません。
これは本当によく勘違いされている重要ポイントです。
例えば通常に売却しようとすると住宅ローンの残債分に対して売却価格との相場が600万円ショートするとします。
こういった場合に
『不動産を通常に売却して残債が600万円も残るから自己破産したほうがよいですか?』
と聞かれることがあります。
しかし、そもそも通常の不動産売却で600万円の住宅ローンの残債分を切り離して売却はできないので、この質問自体が間違いということになってしまいます。
この記事では、任意売却と通常の不動産売却の勘違いしやすい大きな違いについて見ていきましょう。
通常に不動産を売却しようとしても売却査定額が住宅ローンの残債よりも低い場合はどうすればいい?
住宅ローンの返済が厳しくなったり、住み替えが必要になったり、その他さまざまな事情が不動産の売却を検討するきっかけになると思います。
そして大抵の場合は不動産会社に連絡したり、不動産査定サイトに登録したりして売却しようとしている不動産の査定をしてもらうことになります。
そこで問題になってくるのが、
- 住宅ローンの残債>不動産の売却査定額
- 住宅ローンの残債<不動産の売却査定額
でいうと、1の場合です。
例えば住宅ローンの残債が2500万円残っている状況で不動産の売却査定額が2000万円くらいの場合などです。
この場合に最も勘違いされやすいのが、
『とりあえず住宅ローンは2500万円残ってはいるが売却査定額の2000万円で不動産を売却して残りの分はまた分割で払っていけばいい』
と考えることです。
どこが勘違いなのでしょうか?
住宅ローンが2500万円残っていて2000万円で売却するということは仲介手数料や抹消登記費用などの売却諸費用もあわせてだいたい600万円ほどの不足が出ると思います。
通常の不動産売却の場合は不動産をいくらで売却するかは売主と買主の自由ですので不動産の売買契約を2000万円で結ぶことは可能です。
しかし売主は決済の時に住宅ローンの残債2500万円を完済して銀行に抵当権を抹消してもらう義務があるのです。
なので買主から入ってくる2000万円にプラスして売却諸費用とともに600万円を用意しなければ決済と引き渡しができません。
つまり通常に不動産を売却するということは売却代金も含めて住宅ローンの残債を完済できる見込みがなければできないということなのです。
ここを勘違いされてしまっている人が非常に多いです。
なので上記2の場合もしくは1の場合でも不足分を用意できる場合であれば不動産を売却した売却代金で住宅ローンを全部返済できるので通常に売却できるというわけなのです。
任意売却であれば売却後の住宅ローンの残債分を切り離して売れる価格で不動産を売却することができる
通常に不動産を売却する場合は売却代金で不足する場合はどうにかして住宅ローンを全て返済できるためのお金を用意しなければいけません。
しかし任意売却であればそれは必要なく債権者の同意のもとで住宅ローンの残債は残債として切り離して不動産を売却することができます。
ではどうすれば任意売却で残債を切り離して売却することができるようになるのでしょうか?
結論から言うと、任意売却できるのは住宅ローンの延滞だけでは足りず【期限の利益を喪失】していることが大前提となります。
住宅ローンの返済が滞るとすぐに競売になると思われている人も多いですが全くそういうわけではありません。
1~2回分の滞納であればその遅れている分を早く返済してくださいと銀行から言われるくらいです。
しかし何十回も滞納し続けられるわけではないのです。
金融機関ごとに違いますが大抵が3~6回分の滞納を目処に【期限の利益を喪失】させると通知してきます。
【期限の利益の喪失】とはすなわち
『もう規定回数以上滞納してしまったので分割での返済はやめにして住宅ローンの残債を全部一括で返済してくださいね』
ということです。
こうなるともう今までのように月々分割での住宅ローンの返済はできません。
かといって今まで遅れていた分を払うこともできなかったのに住宅ローンの残金一括返済などできるわけもありません。
そうすると金融機関は不動産を競売にかけて処分して貸し付けた住宅ローンの残債を回収することになります。
そしてこの住宅ローンの期限の利益を喪失したタイミングこそが任意売却で住宅ローンの残債を切り離して売却するタイミングなのです。
競売とは裁判所が主導して
- いつからいつまでの間に
- いくら以上で
- 欲しい人は入札してください
という公のオークションのようなシステムです。
ここでミソなのが『いくら以上で』という部分を最初から高くしすぎると誰も入札しなくなってしまうということです。
金融機関からすると可能な限り高く入札開始して欲しいと思っています。
しかし入札開始価格を高く設定しすぎて誰も入札がなく競売が不調に終わることを裁判所は嫌います。
なので競売では市場価格の6割~7割程度の入札開始価格に設定されることが多いのです。
するとどうなると思いますか?
競売で落札したい人は少しでも安く不動産を買いたいと考えている人が多いので市場価格の6割~7割の入札開始価格近辺に入札が集まることになります。
よっぽどの事情で値段度外視で落札したいという人を除いては入札開始価格をにらんだ入札価格になるのです。
例えば入札開始価格が1400万円であれば1451万円などと半端な金額で入札されることが多いです。
キリのいい入札価格だと並んでしまう恐れがあるからです。
中には1円単位まで入れて入札する人もいるくらいです。
入札では文字通り1円でも高い人が落札できるというシステムだからです。
さてここで考えてみましょう。
先ほどの例で
- 住宅ローンの残債が2500万円
- 通常に不動産を売却したら2000万円
- 競売だと1400万円
だとします。
金融機関にとって競売と残債を残して相場で不動産を売却するのとはどちらが得でしょうか?
明らかに競売で1400万円回収するより残債が出ても相場で不動産を売却するほうが金融機関にとっては得ですよね。
債務者である売主にとっても競売なら残債が1100万円残ってしまうのに対して相場で不動産を売却すれば600万円ほどの競売よりも少ない残債で済むわけです。
こうなってはじめて債権者である金融機関と債務者である売主とは利益相反しない一蓮托生のwin-winの関係となるのです。
もしこのタイミングで売主から金融機関に対して相場に近いできるだけ高値で任意売却して残債務を圧縮したいとの申し出があったとすれば債権者の金融機関としてはどうでしょうか?
金融機関としては断る理由はないはずです。
放っておけば競売になるものを売主が最後に頑張って任意売却してできるだけ多く返済したいと言っていることは金融機関にとっても多くの回収が見込めるので良いことだからです。
大まかにはこのような流れと考え方で任意売却で住宅ローンの残債を切り離して市場相場で不動産を売却できることになるということです。
ただし、期限の利益を喪失して競売申立てをしても完済でしか抵当権の抹消には応じないという堅物の金融機関もあることはあります。
三井住友トラスト銀行の保証会社の三井住友トラスト保証などはそのパターンです。
ただ大抵の金融機関は競売よりも任意売却で多く回収したいと考えているので多くのケースで任意売却はできると考えて間違いありません。
ただし任意売却するには意図的か不可抗力かにかかわらず【期限の利益の喪失】が必要
ここでもう一つ。
では、
- 住宅ローンの残債が不動産の売却相場を上回っているが売却したい
- 相場で売却するとして残債ほどのまとまったお金は用意できない
- 住宅ローンの返済は滞納していないしなんとか払える
という場合はどうすれば任意売却できますか?と聞かれることが多いです。
諸事情でどうしても残債を下回る金額で不動産を売却していのであれば任意売却ができる状況を作るしかありません。
それは上記でもご説明した通り【期限の利益の喪失】を起こすということです。
意図的にしろ不可抗力にしろ住宅ローンの滞納の回数が規定回数に達すれば【期限の利益の喪失】は実行されます。
普通の不動産会社に査定を依頼して残債を大きく下回って諦めていたあなたにもチャンスはあるということです。
これをどう考えるのかはあなた次第です。
ただしこの方法はきちんと任意売却の仕組みに精通している任意売却を多く扱う不動産会社と納得がいくまで相談してメリットとデメリットをきちんと理解した上で進めていくことを強くおすすめします。
任意売却するしないは別にしてご相談があるというあなたはまずはお気軽にメールにてお問い合わせください。
あなたが納得いくまであなたのお悩みに真摯に向き合います。
おわりに
- 任意売却と通常の不動産売却を混同して考えてしまっている人は非常に多い。
- 通常の不動産売却であれば決済までに残債分を全て返済しなければ抵当権の抹消を行ってもらえないため売却できない。
- 任意売却であれば残債を切り離してとりあえずの合理的な相場価格で不動産を売却することができる。
- 任意売却で残債を切り離して売却するためには期限の利益を喪失していることが条件となる。
- 期限の利益を喪失するまでにある程度の滞納が必要。
- 期限の利益を喪失するのに意図的か不可抗力かは関係なく滞納回数が規定回数を超えていることが条件となる。
追伸:不動産会社の担当者でも任意売却の仕組みがよく分かっていない場合もあるので注意してください
この記事のような住宅ローンの残債に関することは任意売却を多く扱っていなければ分かりません。
街中の大手不動産会社の担当者でも分かっていないケースはざらにありますのでご注意ください。
ご不安な点、ご不明な点がありましたらぜひメールにてご相談ください。