
競売入札期日の迫っている競売不動産を任意売却するにはどのように進めていけばよいのでしょうか?
次のような競売不動産を事例に見ていきたいと思います。
- 担保物件:昭和57年竣工・鉄骨造の築古アパート
- 物件所有者:破産管財人弁護士
- 競売売却基準価額:1600万円
- 買受可能価額:1280万円
- 第1順位:A銀行 根抵当権極度額500万円
- 第2順位:B信用保証 根抵当権極度額3000万円
- 差押え:C社会保険事務所 滞納額200万円
- 差押え:D市役所 滞納額100万円
この競売不動産に競売入札期日が迫っているが任意売却で購入できないかという買主からの打診を取り付けたという設定です。
たとえ競売入札期日が迫っていても任意売却できることは多いのであきらめないことが肝心です。
この記事では、競売入札期間が迫っている競売不動産の任意売却事例とポイントをご紹介します。
任意売却をするために破産財団と担保権者に同意をとりつける
本件不動産はすでに競売手続きが取られていましたが、競売入札期日が迫っているが任意売却で購入できないかとA銀行の取引先企業から打診がありました。
任意売却の申出価格は2000万円です。
A銀行としては、競売でも任意売却でも第1順位の500万円の回収は確実です。
しかし、購入希望者に本件不動産を担保に新規融資を行うビジネスチャンスがあると判断したA銀行は、競売中の本件不動産が破産管財人主導で任意売却されることについて前向きに検討を始めました。
そこでまず破産管財人弁護士のところに相談に行きました。
破産管財人弁護士は、
『任意売却で破産財団にいくらか入れてもらえるのであれば任意売却に協力することはやぶさかではない』
とのことだったので、破産財団に売買代金の3%を拠出することで任意売却の同意を取り付けました。
次に、任意売却を行うには担保権者の全員の合意が必要です。
A銀行としては、抵当権極度額全額が回収になるので問題はありません。
C社会保険事務所とD市役所の差押解除交渉を行い、C社会保険事務所については解除料20万円、D市役所については解除料10万円で差押え解除の同意を取り付けました。
破産管財人弁護士や関係担保権者への任意売却の打診はスピードが命です。
任意売却を進めようとするならば、まずはどんどん交渉を行っていく姿勢が必要となります。
任意売却の配分案は一発で決まるわけではない
この段階で、配分案を作成してB信用保証協会との交渉を始めました。
作成した配分案は次のとおりです。
- 売買価格:2000万円[a]
- 諸費用:破産財団60万円[3%]
競売取下げ費用56万円[A銀行]
抹消登記費用8万円
合計:124万円[b] - 担保権者配分可能額:1876万円([a]-[b])
- 配分案
第1順位 A銀行
根抵当権極度額 500万円 配分額:500万円
第2順位 B銀行
根抵当権極度額 3000万円 配分額:1346万円
差押え C社会保険事務所
滞納額 200万円 配分額:20万円
差押え D市役所
滞納額 100万円 配分額:10万円
合計:1876万円
この配分案をもってB信用保証協会へ任意売却に応じてもらうよう交渉を行いました。
ところが、B信用保証協会はすんなりOKを出しませんでした。
なぜなら、B信用保証協会独自での担保不動産評価と若干の差があったからです。
そうこうしているうちに時間は刻々と過ぎ入札期間に突入してしまいました。
まだ競売の取り下げは可能ですが、金融機関によっては入札期間に入った競売の取り下げを嫌うところもあります。
今後の事業展開のためにどうしてもこの物件を手に入れたかった購入希望者は、売買価格の100万円の上積みを行って再交渉を行いました。
その熱意が通じたのか最後にはB信用保証協会も快く任意売却に応じてくれたのです。
このケースでB信用保証協会と再交渉を行うには、
- 売買価格を上げてB信用保証協会の配分額を増やす
- 破産財団組入額やA銀行への配当や差押え解除料を減らしてB信用保証協会への配分額を増やす
という2通りの選択肢がありましたが、圧倒的に手っ取り早いのはなんといっても1です。
それは購入希望者の一存で決定できるからです。
その時の最終的な配分案は次のとおりです。
- 売買価格:2100万円[a]
- 諸費用:破産財団63万円[3%]
競売取下げ費用56万円[A銀行]
抹消登記費用8万円
合計:127万円[b] - 担保権者配分可能額:1973万円([a]-[b])
- 配分案
第1順位 A銀行
根抵当権極度額 500万円 配分額:500万円
第2順位 B銀行
根抵当権極度額 3000万円 配分額:1443万円
差押え C社会保険事務所
滞納額 200万円 配分額:20万円
差押え D市役所
滞納額 100万円 配分額:10万円
合計:1973万円
おわりに
この事例からもわかるように、競売中の不動産であっても任意売却は可能です。
競売の売却基準価額や買受可能価額は不動産鑑定に基づいて裁判所が決定したものであるので、価格に合理性があると判断されやすいのです。
売却基準価額や買受可能価額を相応に上回る価格であれば、金融機関としても価格に合理性があるので任意売却で対応する決断がしやすくなります。
本事例では、A銀行は本件不動産の購入希望者にファイナンスを付けることによりビジネスチャンスが広がると読めたことから、競売取下げについて多少の無理を聞いてくれたとも考えられます。
しかしたとえファイナンスというビジネスチャンスがない場合であっても、価格に合理性があるのであれば債権回収の極大化のために競売中の任意売却の交渉に応じる姿勢は必要であるといえます。
また金融機関として抵当権で全額回収できなくても、残債権を早期にオフバランスできるという観点から任意売却に応じるという考え方もできるのです。
競売申立てをされていて競売開始決定の通知が来ていてもまずご相談ください。
まだ間に合います。