物件売却・出口戦略

マルチプルとは?マルチプル投資分析で不動産投資の総利益を自分で簡単に算出する手順と投資シミュレーション

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マルチプル投資分析の出口戦略で『物件売却での総利益を読む』方法

不動産投資の出口戦略においてマルチプル投資分析の考え方が活用できます。

AMや出口戦略シミュレーションを行う際に最も重要になってくるのが、

『売却によって確定する総利益はいくらなのか?』

ということになってくると思います。

物件購入前、物件購入後にかかわらず、

  • いつ
  • いくらで

収益物件を売却するとトータルでいくらの利益になるのか?

それがマルチプル投資分析になります。

この記事では、収益物件の売却時に儲けを最大にする不動産投資マルチプル分析9つの手順とマルチプル不動産投資出口戦略法をご紹介します。

マルチプル投資分析で不動産投資の総利益を自分で簡単に算出する手順

ここでは一般化のため、

  • 税引前キャッシュフロー
  • 税引前売却益

を用いてシミュレーションを行います。

なぜかというと税引後のシミュレーションは場合分けが多くなり複雑になってしまうからです。

たとえば、

  • 専業不動産投資家
  • サラリーマン不動産投資家

の違いでも損益通算により納税額は変わってきます。

また、

  • 個人保有
  • 法人保有

でも当然税率が変わってくるため納税額も変わってきます。

あとは、

  • 1棟だけ保有
  • 複数棟保有

でも他物件との兼ね合いがあるかないかで所得の出し方が変わってきます。

以上のような条件をすべて設定してもあまりシミュレーションとしては汎用性がありません。

あくまで一般化した形で収益物件のマルチプル投資分析による出口戦略をシミュレーションするためには税引前の設定でいきます。

あえて言うならグロスのマルチプル投資分析になります。

税引後のNETのマルチプルはそれぞれの条件で納税申告を行ったあとの個別の話になるからです。

 

手順①:BTCF(税引前キャッシュフロー)の計算

キャッシュフロー計算表
EGI 実効総収入
▲OPEX 運営費
NOI NET収入
▲ADS 年間借入返済額
BTCF 税引前キャッシュフロー

家賃引き直し・空室損を考慮した実効総収入(EGI)から、管理費用や固定資産税・都市計画税等の運営費(OPEX)を差し引いて、NET収入(NOI)が出ます。

NET収入(NOI)から借入年間返済額(ADS)を差し引くと、単年度の税引前キャッシュフロー(BTCF)が出ます。

借入年間返済額(ADS)は、

  • 借入金額
  • 借入金利
  • 返済期間

で決まります。

 

手順②:累計BTCF(税引前キャッシュフロー)の計算

手順①で求めた単年度のBTCF(税引前キャッシュフロー)の金額に所有年数を掛けて、所有期間の累計BTCF(税引前キャッシュフロー)が求まります。

例えば、

  • 5年保有⇒6年目に売却・・・単年度BTCF×5
  • 10年保有⇒11年目に売却・・・単年度BTCF×10

ただし、上記は購入前のシミュレーションになります。

購入後であれば、

  • 購入から現在までは実際の数字
  • 現在から売却予定までの期間は想定した数字

でシミュレーションを行うことで、より精度が高まります。

EGI(実効総収入)に家賃の引き直しや空室損が入っていますので多少の出入りや家賃の下落は気にせずにシミュレーションを行ってかまいません。

 

手順③:物件売却希望額の設定

物件をいくらで売却するのかを設定します。

例えば、1億円で購入した物件を1億1,000万円で売却するのか、償却分を差し引いて9,000万円で売却するのか、などです。

考慮に入れるのは主に下記2つです。

  • 市場、マーケットの動き
  • 付加価値のあるリフォーム、リノベーションにかけた費用

売却予定価格をまずは希望でも良いのでいくらと決めてしまいましょう。

ただし、べらぼうな金額はダメです。

現実的なラインで設定します。

 

手順④:購入価格と売却予定価格との差額の計算

計算というほどでもないですが・・・

◎売却・購入差額=売却予定価格-購入価格

売却・購入差額はマイナスがついてもかまいません。

購入時よりも価格を下げて売却する場合も往々にしてあるからです。

 

手順⑤:借入金残高の計算

これはローン電卓か、アプリなどの無料ローンシミュレーターなどを使って計算します。

年間借入返済額(ADS)は元金部分と金利部分の両方を含みますので、実際に借入金残高を減らすのは元金部分のみとなるからです。

  • 借入金額
  • 借入金利
  • 返済期間
  • 何年目の残高

を入力して求めることができます。

 

手順⑥:売買諸経費の計算

購入した時と売却する時の諸経費をダブルで考慮します。

◎売買諸経費=購入時に支払った諸経費+売却時に支払う諸経費

主に、

  • 仲介手数料
  • 印紙代
  • 登録免許税
  • 不動産取得税
  • 司法書士報酬
  • ローン事務手数料

などがあげられます。

購入時にかかる金額が圧倒的に多いです。

 

手順⑦:売却益(損)の計算

売却益は売却時の総利益の計算となります。

売却予定価格から手順⑤で求めた借入金残高、売買諸経費を差し引きます。

そして上記に、手順④で求めた売却・購入差額を加えたもの(マイナスの場合はそのままマイナスで加える)が売却益(損)となります。

計算式は、

◎売却益(損)=売却予定価格-借入金残高-売買諸経費+売却・購入差額

となります。

 

手順⑧:総利益の計算

物件売却後の総利益は、手順②で求めた累計BTCF(税引前伽種フロー)に、手順⑦で求めた売却益(損)を加えたものになります。

計算式は、

◎総利益=累計BTCF(税引前キャッシュフロー)+売却益(損)

となります。

おもしろいのは、売却損であっても累計BTCF(税引前キャッシュフロー)を上回る損失でない限りは、総利益がマイナスになることはないということです。

売却損益トントンで物件を売却したとしても累計キャッシュフローの分は利益となるということを示しています。

 

手順⑨:マルチプルの計算

マルチプルは投下した自己資金が最終的にいくらになっているかの倍率を表します。

計算式は、

◎マルチプル=総利益/自己資金

となります。

  • マルチプル>1・・・自己資金が増えて戻ってきた
  • マルチプル=1・・・自己資金がそのまま戻ってきた
  • マルチプル<1・・・自己資金が減って戻ってきた

と評価することができます。

 

マルチプル投資分析による不動産投資出口戦略のシミュレーション

◎10年間保有して11年目に売却するとします。

 

物件の概要

今回シミュレーションする物件の概要です。

購入総額
物件価格 ¥95,000,000
諸費用(概算)   ¥6,500,000
合計 ¥101,500,000

 

資金計画
自己資金 ¥12,600,000
借入額 ¥88,900,000
金利 4.500%
借入期間 30年
月額返済 ¥450,443
固定資産税・都市計画税(概算) ¥380,200
不動産取得税 ¥485,000

 

想定賃料(月額)
引き直し賃料 ¥720,000
 ▲空室損5% ¥36,000
収入合計 ¥684,000
支出の部(月額)
BM管理費 ¥10,000
共用部光熱費 ¥5,000
固定資産税・都市計画税 ¥31,683
賃貸管理料 ¥50,274
CATV ¥6,300
支出合計 ¥103,257
収支(年額)
GPI ¥8,208,000
▲OPEX ¥1,239,088
NOI ¥6,968,912
▲ADS ¥5,405,319
 CF ¥1,563,593

 

10年後のシミュレーション

10年後の累計BTCFと借入金残高は下記のとおりです。

10年経過後(11年目)
累計BTCF ¥15,635,930
借入金残高 ¥71,016,062

 

売却価格1億円(>購入価格9,500万円)の場合

  • 売却時の諸経費・・・売却価格×約3%=¥3,000,000
  • 購入時の諸経費・・・¥6,500,000
  • 売却・購入差額・・・売却価格-購入価格=¥5,000,000

◎売却益(損)=売却予定価格-借入金残高-売買諸経費+売却・購入差額
=¥100,000,000-¥71,016,062-¥9,500,000+¥5,000,000
=¥24,483,938

◎総利益=累計BTCF(税引前キャッシュフロー)+売却益(損)
=¥15,635,930+¥24,483,938
=¥40,119,868

◎マルチプル=総利益/自己資金
=¥40,119,868/¥12,600,000
=3.18

税引前で自己資金が10年間で3.18倍に増えたことになります。

 

売却価格9,500万円(=購入価格9,500万円)の場合

  • 売却時の諸経費・・・売却価格×約3%=¥2,850,000
  • 購入時の諸経費・・・¥6,500,000
  • 売却・購入差額・・・売却価格-購入価格=¥0

◎売却益(損)=売却予定価格-借入金残高-売買諸経費+売却・購入差額
=¥95,000,000-¥71,016,062-¥9,350,000+¥0
=¥14,633,938

◎総利益=累計BTCF(税引前キャッシュフロー)+売却益(損)
=¥15,635,930+¥14,633,938
=¥30,269,868

◎マルチプル=総利益/自己資金
=¥30,269,868/¥12,600,000
=2.40

税引前で自己資金が10年間で2.40倍に増えたことになります。

 

売却価格9,000万円(<購入価格9,500万円)の場合

  • 売却時の諸経費・・・売却価格×約3%=¥2,700,000
  • 購入時の諸経費・・・¥6,500,000
  • 売却・購入差額・・・売却価格-購入価格=▲¥5,000,000

◎売却益(損)=売却予定価格-借入金残高-売買諸経費+売却・購入差額
=¥90,000,000-¥71,016,062-¥9,200,000-¥5,000,000
=¥4,783,938

◎総利益=累計BTCF(税引前キャッシュフロー)+売却益(損)
=¥15,635,930+¥4,783,938
=¥20,419,868

◎マルチプル=総利益/自己資金
=¥20,419,868/¥12,600,000
=1.62

税引前で自己資金が10年間で1.62倍に増えたことになります。

 

不動産投資マルチプル投資分析から分かること

不動産投資においてマルチプル投資分析を行うことで、投下した自己資金が運用した期間で何倍になったのかを数値化することができます。

マルチプルを構成す要素は、

  • 累計BTCF(税引前キャッシュフロー)
  • 物件売却益(損)

の2つです。

累計BTCFはインカムゲイン、物件売却益(損)はキャピタルゲインを表します。

理想はBTCFと物件売却益が両方とも高いことですが、損切りで売却するときなどは、どちらかがマイナス、もしくはどちらもマイナスとなることもあります。

そのような場合でも、どのくらい損をしたか、投下した自己資金がどれくらいの倍率で減ったのかを数値化することができることになります。

逆に築古の物件で安く購入できそうな場合は、空室が多くてBTCFが少ないことには目をつむって、売却益狙いでマルチプルをトータルでは高めるという判断もできます。

また、投下した自己資金が増えている場合でも、運用期間に見合ったものなのかを数値で判断することができます。

  • マルチプル>1・・・自己資金が増えて戻ってきた
  • マルチプル=1・・・自己資金がそのまま戻ってきた
  • マルチプル<1・・・自己資金が減って戻ってきた
  • マルチプル<0・・・自己資金を全て失って持ち出しになった

と評価することができます。

 

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おわりに

  • 不動産投資の出口戦略において、マルチプル投資分析の考え方を活用することで、『売却によって確定する総利益はいくらなのか?』を求めることができる。
  • マルチプルは累計BTCF(税引前キャッシュフロー)と物件売却益(損)の合計で求めることができる。
  • 投下した自己資金が、運用期間を経て、いくらになって戻ってくるのか、そしてそれは最初に投下した自己資金の何倍になっているのかを数値化することができ、アセットマネジメント(AM)や出口戦略を立てる際の重要な指標となる。
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