不動産投資用の収益物件は物件価格が1億円を超えることもざらにあり、非常に高額な取引となります。
だからこそ、収益物件の購入にあたっては細心の注意をもって契約しなければなりません。
しかし、万が一購入した収益物件が、建ぺい率や容積率が契約時の重要事項説明と違っていて違法建築物だった場合に重要事項説明義務違反を理由に売買契約を解除することはできるのでしょうか?
この記事では、不動産売買において重要事項説明義務違反を理由に売買契約を解除したり損害賠償が取れるとは限らない理由をご紹介します。
不動産売買において重要事項説明義務違反を理由に売買契約を解除したり損害賠償が取れるとは限らない理由
不動産売買における重要事項説明義務について
投資目的で一棟マンションを購入するとします。
この際、売買契約に先立ち、仲介に入っている不動産業者は当該物件の建ぺい率や容積率について、事前に買主に対して説明しなければなりません。
これを『重要事項説明』といい、それが書かれた書類を『重要事項説明書』といいます。
では、万が一重要事項説明書に記載のある建ぺい率や容積率が、実際の建ぺい率や容積率と相違していたことが契約後になって発覚した場合、買主はそれを理由に契約を解除することができるのでしょうか?
重要事項説明義務と損害賠償の事例
このようなケースでは、法的にはいろいろなケースがあると考えられますが、一般的には建物引き渡しまでの間に何らかの形でその相違が発覚した場合は、売買契約を解除できる可能性があるといえます。
しかし、仮に重要事項説明書の内容と相違していたとしても、当該建物が修正後の建ぺい率や容積率にも適合しているような場合は、違法建築物ではないため、契約の解除事由としては弱い可能性があります。
もし、修正後の建ぺい率や容積率を当てはめたときに、当該建物がそれを満たすことができない場合は違法建築物となりますので、解除事由としてはある程度説得力があるといえます。
売買の決済引き渡しが終わった後に、これらの事実が発覚するようなケースもあります。
そうなると、契約の解除というよりは、売主や不動産業者に対しての損害賠償請求の話になってきます。
このようなケースは、過去の判例にもありますが、必ずしも損害賠償請求が認められるとは限らないようです。
東京地裁の判例によると、マンションの容積率が基準を超過していることが引き渡し後に発覚した事案において、買主が瑕疵担保責任、不法行為、債務不履行などを理由に価値の低下による損害賠償を売主及び不動産業者に求めましたが、当該事項の説明義務違反があったことは認められたものの、それによる事実上の損害がないとして損害賠償請求は棄却されています。
つまり、この判例をもとに考えると、建ぺい率や容積率は不動産業者に説明の義務があることは確かですが、だからと言ってただちに損害賠償請求が認められるというわけではなく、それによって具体的な損害が発生しているなどの事情が必要であるといえます。
重要事項説明書と売買契約書
収益物件の売買契約時に気を付けるべき点はどこでしょうか?
売買契約時には、物件概要書やレントロールに記載されていなかった内容がないかをチェックすることが重要です。
収益物件を購入する際の売買契約では、重要事項説明書と売買契約書に押印することになります。
この記事では、収益物件の売買契約時に気を付けるべき点をご紹介します。
重要事項説明書は、売買予定の不動産に関する内容と取引事項について書かれており、買主が仲介会社の宅地建物取引士から内容の説明を受けてから押印します。最近では、売主にも確認の意味で押印をもらうケースが大手不動産会社をはじめとして増えてきています。
売買契約書には、不動産取引において売主と買主が合意する事項について記載されており、売主・買主両者が押印します。
本来であれば、買主が重要事項の説明を受けてから購入を検討し、後日売買契約を行うという流れになるはずなのですが、実際は手間の問題からほとんどのケースにおいて重要事項説明と売買契約は期日に行われます。
売買契約には、売主と買主およびそれぞれの仲介会社が一同に集まって契約書に調印する立会い契約と、売主と買主が別々の日に調印を行う持ち回り契約があります。
どちらのやり方でも問題はありませんが、売主の顔を見ながら契約書の内容を確認したほうが、契約書に載せるほどではないが気になるようなことがあった場合に、直接聞くことができるメリットがあります。
不動産の売買契約書には、売買に関するすべての内容が記載されている必要があります。決済予定日が迫っていたり、売買の仲介を行う不動産会社が怠慢だったりすると、契約日が近くなった段階で慌てて契約書を作成するということもよくあります。
このような場合でも、必ず事前に重要事項説明書と契約書の内容をしっかりと確認することが必要です。
少なくとも契約の1週間前には契約書のドラフトを仲介会社からもらって、すべての内容について納得がいくまで精査して確認する必要があります。
売買契約書の内容で気を付けるべき4つの点
①物件概要書に記載がなかった説明事項の確認
物件概要書には細かいことが書き切れないため、接道状況や近隣との取り決めなどについては、契約の段階で初めて明らかになるケースがあります。
また、最初の段階で制約事項を多く示してしまうと、買主の購入意欲が減退してしまうため、不利な内容はあえて後出しにするという少しズルいやり方をする仲介会社も少なからず存在します。
不利な状況がないか仲介会社に確認するとともに、自分でも契約書の内容をすみずみまで確認する必要があります。
②レントロールと賃貸借契約書の突き合わせ
売買契約締結時点のレントロールは必ず契約書に添付してもらいます。
また、レントロールと賃貸借契約書を突き合わせ、レントロールが正しいかどうかの確認も行う必要があります。
レントロールに記載されている賃料が間違っていることが、決済して管理会社の引き継ぎを行う段階で発覚するようなケースもあります。
収入に直結する部分であり、不動産投資の収支の根幹をなす部分ですので、念には念を入れて、自分のためにも確認を怠らない姿勢で臨む必要があります。
③支出項目の確認
すべての支出項目の確認を必ず契約前に行う必要があります。
- 共用部の水道代
- エレベーター費用
- ケーブルテレビ
- インターネット
など、すべての費用項目を売主から提出してもらいます。
支出項目の確認も、不動産投資の収支計算をする上で大変重要となるので、契約する段階で確認するのでは遅すぎるくらいです。
④引き継ぐべき付帯契約の有無
収益物件を所有していると、様々な業者と契約を行うことになります。
- 管理会社
- エレベーターメンテナンス会社
- プロパンガス会社
- 清掃会社
- ゴミ収集会社
などです。
売主がこれらの会社と長期契約を結んでいる場合、新たな買主にも契約の継続を求めてくる場合があります。
契約書に記載のない契約は引き継ぐ必要はありませんが、途中解約時に違約金などが発生する場合などに、後から売主ともめる可能性があるため、契約の段階で確認しておく必要があります。
- 敷地外に駐車場を借りている
- 携帯電話の基地局契約がある
などの場合についても、契約期間などについて確認をしておきます。
契約書に記載の内容ももちろんしっかり確認する
契約書に必ず記載されている、
- 融資特約の期限
- 瑕疵担保責任の有無
などについても、問題がないか、当初の話と違っていないか、きちんと確認しておく必要があります。
売買契約で重要なのは、とにかく早めに重要事項説明書と売買契約書のドラフトをもらい、内容を確認しておくことです。
不動産業界は、何に関しても大ざっぱさが許される風潮があるため、契約書を買主に見せるのが契約日当日でもおかしくないと考えている仲介会社も存在するからです。
悪気なく今までの慣行でそのように進めてしまう場合も少なからずあります。
ただし、そのような慣習をうまく利用して、買主にとって多少不利益であっても、そのまま契約日当日に丸め込んで進めようと考える不動産会社もいるため注意が必要です。
おわりに
- 売買契約後に違法物件だと分かった場合、決済引き渡し前であれば、契約解除できる可能性は高い。
- 上記理由で決済引き渡し後に売主に損害賠償請求するのは、裁判の手間がかかり、損害が認められないケースもあるということを考えると、引渡し前にきちんと重要事項説明書や売買契約書をチェックすることが大変重要になる。