収益物件を購入する際に宅地造成工事規制区域と聞いて真っ先に思い浮かぶのは何でしょうか?
宅地造成工事規制区域にある収益物件を購入する際に一番の問題になってくるのが『擁壁』だと思います。
大都心部以外では丘陵地に宅地造成をしているところはものすごく多く、丘陵地の宅地での建物建築にともなって『擁壁』が存在しているところはとても多いです。
もし擁壁に欠陥があった場合、後から簡単に直せるものではないので注意が必要です。
小中規模の木造アパートなどが丘陵地の住宅地に建っている場合に既存擁壁が基準不適合な場合が多くもし擁壁工事が必要となれば相当な高額の費用がかかることになります。
この記事では、収益物件を購入する際の宅地造成工事規制区域の『擁壁』について注意するポイントをご紹介します。
擁壁のほとんどが基準不適合!宅地造成工事規制区域で擁壁のある収益物件を買ったあとの擁壁工事は高額になるので注意する
擁壁とは斜面が崩れないように設置する壁のことです。
道路より敷地が高くなっている収益物件で盛り土を擁壁で囲って補強しているケースなどです。
擁壁は盛り土の方かいを防ぎ、建物の地盤を安定させるという重要な役割を担っているため擁壁が法令に則って正しく設置されているかどうかが重要になります。
擁壁のチェックポイント①:法令に適合しているかどうか
擁壁がある収益物件を購入する場合はまず設置されている擁壁が適切なものであるかどうかについて確認する必要があります。
一定規模の擁壁においては、
- 都市計画による開発許可
- 宅地造成等規制法による許可
- 建築基準法による確認申請
の許可申請の履歴を役所の建築指導課などで確認することができます。
ここで擁壁の設置後に行政側の検査を受けている履歴が確認できたとしても、古い収益物件については現況も含めて確認するために必ず現地調査を行います。
擁壁のチェックポイント②:現地で目視による確認をする
建築当初の擁壁に問題が無いことが役所で確認できたら次に現在の擁壁の状態について直接見て確認しましょう。
まずは水抜きがあるかどうか確認します。
擁壁の強度を保つには水抜きが適切にされているかどうかがとても重要になるからです。
擁壁の壁面には3㎡あたり内径7.5cm以上の水抜き穴を1つ以上設置する必要がありますので、まずは水抜き穴が適切に設置されているか、水抜き穴が詰まっていないかを目視で確認します。
擁壁の表面が乾いているかどうかも確認します。
湿っていたり水がしみ出て流出していたりする場合は要注意です。
擁壁のクラックや目地部分から水がしみ出しやすいので重点的に確認します。
擁壁の排水経路として上部に排水溝、下部に側溝が設置されています。
排水溝は目地開きやずれ、雑草の発生や土壌堆積などが起こっていないかの確認をします。
側溝については擁壁の沈下などによって崩壊していることもあるのでよく確認する必要があります。
他にも擁壁を目視で確認して、
- クラック(ひび割れ)
- 水平移動
- 目地の開き(不同沈下)
- コーナー部分の開き
- ふくらみ(擁壁全体の前方へのふくらみ)
- 傾斜・折損
などの以上がある場合は擁壁の強度に問題がある可能性が高いです。
そうなると擁壁の改修工事が必要になることが考えられます。
擁壁の改修工事は金額が数百万円から数千万円単位と莫大になりますので擁壁を甘く見ないようにしましょう。
古い擁壁のなかには現在の基準を満たしていないものも多々あります。
改修工事に多額の費用がかかることから不動産投資ではできるだけ擁壁のある収益物件は避けたほうが安心です。
倒壊のリスクのある擁壁①:二段擁壁・増し積み擁壁
高さのある擁壁の場合は擁壁が二段重ねになっていたり種類の違う擁壁が重なっていたりすることがあります。
このような擁壁は一段目の擁壁に二段目の擁壁を重ねた部分に想定した強度が備わっていない可能性があります。
地震や大雨などで倒壊する危険性があります。
倒壊のリスクのある擁壁②:空石積み擁壁・野面積み擁壁・玉石積み擁壁
単に石を積み重ねただけでできている擁壁で比較的低い擁壁に多く見られます。
石の重みだけで支えているだけのため水平方向への力に弱く震度の小さい地震でも崩れる可能性がある擁壁です。
いくらかかる?擁壁の改修工事費用の目安とは?
擁壁に目視で異常が確認できる場合は擁壁の裏側に水が溜まっている可能性があります。
擁壁の裏側に水が溜まると水圧で擁壁が押し出されて最終的には崩れる恐れがあるため改修工事を行う必要が出てきます。
擁壁の改修工事にかかる費用は、
- 補強工事:1.5万円/㎡
- 新設工事:2万円/㎡
さらに取り壊し費用や運搬処分費用などもかかるため擁壁を改修しなければならない収益物件は不動産投資としては割に合わなくなる可能性が高くなります。
擁壁がもし崩れた場合に火災保険の補償は受けられるのか?
万が一自分の収益物件の擁壁が崩れれば改修工事が必要になります。
火災保険に加入している場合は補償対象となるのかが問題となります。
結論からいうと擁壁が崩れても火災保険を適用することは難しいです。
火災保険の適用範囲は建物本体であり擁壁については地盤として扱われる可能性が高いです。
擁壁が崩れたとしても火災保険から補償を受けることは簡単ではないということです。
地震保険でも火災保険と基本的な考え方は同じなので地震によって擁壁が崩れたとしても擁壁の復旧費用は自己負担となる可能性が高いです。
そもそも宅地造成工事規制区域とは?
宅地造成工事規制区域とは、宅地造成に伴って災害が生じる可能性が大きい市街地または市街地になろうとする土地の区域であって、宅地造成に関する工事について規制をする必要があるものとして都道府県知事などが指定したもののことをいいます。
簡単にいうと、宅地造成工事規制区域内については宅地造成に関して一定の規制がかかるということです。
この宅地造成にかかわる規制が、築の古い物件では結構な問題に発展することがあります。
そのため、築古の物件の『擁壁』には十分に注意を払う必要があります。
基準不適合の『擁壁』が多数存在していることに注意
宅地造成工事規制区域内において宅地造成工事をする場合は、技術的基準に適合する『擁壁』や『排水設備』などを設置して宅地造成に伴う災害を防止するための措置を講じなければいけないことになっています。
そもそもこの区域内は傾斜地になっているため、それらが崩れてこないように適切な対策を施しているのですが、まれにこれらの『擁壁』や『排水設備』などの施設が技術的基準に適合していない場合があります。
そしてその中でも特に注意が必要なのが『擁壁』です。
擁壁とは簡単にいうと崖が崩れてこないように設置するもので、建築基準法においても崖崩れの可能性がある場合は擁壁を設置するように規定されています。
さらに宅地造成等規制法の施行令では30度以上の傾斜地を崖とし、これに該当する場合は擁壁などの安全対策が必要とされています。
しかし、実際の擁壁の中には、
- 技術的な基準を満たしていないもの
- 劣化によって強度が著しく低下したもの
などが散見されるため、宅地造成工事規制区域内の収益物件を購入する場合は、必ず現地を視察するなどして擁壁をはじめとした物件の安全性をよく検討する必要があります。
擁壁の安全性を見分けるには?
高さが2mを超える擁壁をつくる場合は、建築基準法によると役所への確認申請が必要となっています。
しかし、
- 法律が制定される前につくられた古い擁壁
- 確認申請をせずに勝手につくられた擁壁
などが、実際には多く存在しています。
これらの擁壁は、『不適格擁壁』といい、安全性が疑わしい非常にリスクの高いものということになります。
そのためどうしても宅地造成工事規制区域内の収益物件を購入する場合には必ず擁壁の検査済み証を確認するようにしておくと安心感が増します。
また収益物件が古くて検査済み証が見つからない場合は、役所に問い合わせることで擁壁を造った当時に確認申請がされているかどうかを確認することが必要です。
都市計画法の許可、検査を受けている擁壁の場合は、役所の開発登録簿を閲覧することで確認することができます。
また、高さが2mを超えない擁壁であっても油断できません。
これらの低い擁壁については、法律上擁壁を作るにあたって確認申請の義務がないため、どの程度の強度があるのか疑問が残ります。
なので結局専門家に事前に相談して耐久性を調べなくてはならなくなったりして別途費用がかかったりします。
安全性が確認できない擁壁の具体例
比較的新しい擁壁の場合は、
- 鉄筋コンクリート造
- 間知ブロック積
のものが多く、これらについてはある程度の安全性があると推測されますが、古い擁壁にさらに積み増しをしてつくった『増し積み擁壁』には注意が必要です。
『増し積み擁壁』はその現場を直接見に行くと、古い擁壁と新しい擁壁の境目がはっきりと分かります。
このような擁壁は古い擁壁に対して、設計当初想定していなかった圧がかかることになるため、崩壊をまねく危険性があります。
このような擁壁で崩壊した場合、擁壁によって人や建物に被害を与えると損害賠償責任が発生します。
そして、その擁壁を基準に適合するように作り直すには、数百万円単位のかなり高額な費用がかかります。
宅地造成工事規制区域内の物件には、区域外の物件にはない特殊な設備が必要なため、擁壁や排水設備が基準を満たしているのかどうか必ず購入前に確認することが必要です。
おわりに
- 擁壁が古い場合には、擁壁の検査済み証や擁壁の強度については十分に確認してから購入する必要がある。
- 鉄筋コンクリート造や鉄骨造の頑丈そうに見える擁壁でも、古い擁壁に積み増した擁壁の場合は、設計通りの強度にはなっていないので注意が必要。
- 擁壁が崩れて人やモノに被害を与えると損害賠償責任が発生する。そして作り直すにも数百万円単位の費用がかかることになる。