任意売却のほうが競売よりも断然はるかにメリットが大きいのにもかかわらず、なぜ競売の件数は常にそこそこの数がずっとあるのでしょうか?
債権者と債務者の双方にとって競売よりも任意売却のほうがメリットが大きいのであれば、どんどん任意売却をやればよいのではないかと思われるのかもしれませんが、そうは問屋が卸さない事情もあるのです。
競売の場合は債権者が競売申立さえすればあとは裁判所が主導して問答無用で進んでいくのですが、任意売却の場合はいろいろと根回しや調整が必要になるので場合によっては任意売却で競売が回避できず不調に終わることもあります。
任意売却で競売回避をするためにはクリアすべき3つの最低条件があるのです。
任意売却で競売回避を行うためには
- 所有者の売却意思と協力
- 権利関係者全員の同意
- 処分価格が妥当であること
の3つの条件が最低限必要となります。
最低でもこの3つはクリアしておかなければ任意売却で競売を回避するのは難しくなるでしょう。
任意売却で競売回避するための必須条件①:債務者の売却意思と協力があること
要は本人に任意売却で家を売却するという意思があるかどうかです。
本人が任意売却なんか面倒だからとやる気がなければまわりがいくら任意売却しようとしたところで無理です。
そしていざ任意売却を進めていくことになったとして任意売却中にご協力いただけるかどうかも大切です。
債務者と所有者が違う場合は当然両方のやる気と協力が必要になります。
任意売却における債権者のスタンスは、あくまでも不動産の売却代金からの配当によって担保の解除ができるかどうかを検討するというものです。
任意売却で家を売却するのは債権者である銀行ではなく、あくまで債務者であり物件の所有者自身なのです。
なので家を任意売却で売却するためには、物件の所有者の売却意思と協力がなければ進めることはできません。
このように任意売却の売主は不動産の所有者です。
それは、
- 債務者自身
- 担保を提供している人(物上保証人)
だったりしますが簡単な話、不動産の所有者が『売ってもいいですよ』と言わないかぎり任意売却では話は進んでいかないのです。
また、なかには『売ってもいいですけど協力はしません』というひねくれた所有者もいたりします。
しかし、このような物件の所有者の協力がなければ任意売却がうまくいかないのは目に見えています。
いかに担保物件の売却の同意を所有者から得られるかに任意売却の未来がかかっています。
債権者も債務者や担保物件所有者と同じ目線に立って、相談に乗りながら解決していこうとするスタンスで臨むことができれば任意売却も進みやすくなります。
これらを中心になって音頭を取っていくことも任意売却の手続きを依頼された私たちの腕の見せ所なのです。
任意売却で競売回避するための必須条件②:抵当権者など担保に付いている債権者全員の同意があること
やっとのことで所有者を説得して任意売却の同意や協力の意思を取り付けたとします。
しかし、それだけで任意売却ができるわけではないのです。
担保に付いている権利がすべて消えない限り任意売却は成立しないからです。
任意売却を成立させるためには、この部分に手間暇を惜しんではいけないのです。ある意味任意売却のキモでありツボとコツともいえる部分です。
ここが任意売却の一番の山場ともいえます。
権利関係者全員の同意を得ること、この調整は任意売却によって一番利益を受ける債権者がある程度の主導権を握って、自らもしくはその代理人が交渉の場に出ていかないとまとまらないケースが多いといえます。
任意売却で競売回避するための必須条件③:不動産の処分価格が妥当だと判断されること
不動産の任意売却価格は妥当か?
担保不動産の早期処分を急ぐあまり、著しく低い価格で売買をしてはいけません。
適正な売買価格でうまく処理しなければ正しい任意売却とはいえないからです。
低すぎる価格で担保不動産を任意売却したら何が問題になるのでしょうか?
債務者の担保物件を著しく低い価格で売買すると、保証人からクレームが出る可能性があります。
保証人からすればその担保不動産の担保価値が十分あると思っていたので保証をしたと言いたくなるのです。
それを著しく低い価格で思っていた価格よりも安く叩き売ってしまったのだから、その差額の分は保証できませんという話に発展しやすくなります。
これが担保保存義務違反による免責のクレームという問題です。
任意売却であってもしっかりと適正な価格で処分できるよう努力をするべきです。
そして保証人からも『担保解除同意書』に記名押印をもらうようにして後々のトラブルを防止したいところです。
破産管財事件の破産管財人弁護士による不動産の任意売却の場合
たとえば破産管財人が担保不動産の所有者である場合、破産管財人は担保不動産売却にあたっては裁判所の許可を取り付ける必要があります。
裁判所による売却許可の前提として、破産管財人は担保不動産の処分価格の妥当性を証明しなければいけません。
不動産鑑定書が必要であったり、2社以上の不動産会社の価格意見書が必要であったりと破産管財人によって売却価格の証明に必要な実務はまちまちなのですが、売却価格の妥当性は破産管
事件でもしっかりとチェックする必要がある事項だということです。
任意売却での売却価格の妥当性の判断基準
担保不動産の買受人が担保提供者の子どもや親戚や知人などの場合は、通常よりも安い価格で売却しようとすることがあるので、そのような場合にも処分価格の妥当性について検証を行う必要があります。
また、任意売却における価格が競売価格での売却基準価額や買受可能価額を上回っているからといって妥当であるということは一概にはいえません。
競売価格とはいわゆる卸売価格のことを指します。
現実に入札になってみると思いのほか高額で買受可能価額を大きく上回る価格で落札されることもよくあることです。
個別の担保物件の特性をよく理解して、処分価格の妥当性を検証することも任意売却の実務においてはとても大切なことだといえます。
おわりに
任意売却を進めるための3つのポイントをまとめると、
- 担保不動産所有者の売却意思と協力
- 担保権者など担保不動産に付いている権利関係者全員の同意
- 担保不動産の処分価格が妥当であること
となります。
この3つの条件が最低限揃わないと任意売却は前に進みません。
最悪の場合は債権者主導で競売申立てということになり、競売手続きが進んでいくことになります。
そして、下記のような事情がある場合は競売申立てをするしかないといえます。
- 所有者がどうしても任意売却に応じない場合
- 所有者が行方不明の場合
- 担保不動産の担保権者などステークホルダーで協力を得られない者がいる場合
この3つのうちどれかが当てはまる場合は、任意売却の土俵に乗らない可能性が高いといえるのである程度のところで線引をして競売手続きに切り替える必要があるといえます。