
任意売却の不動産売買契約書は一般の不動産売買契約書と何か違うのでしょうか?
任意売却は物件所有者である売主が債務超過状態であり債務不履行(デフォルト)の状態になっています。
なので通常の不動産売買契約のように、何かあったときに売主が一切補償することができません。
購入したあとで何か突発的なことがあっても全て買主の責任と負担ということになるのです。
取引条件的には競売とほとんど変わらないといえます。
任意売却の不動産取引ではその点を不動産売買契約書にも盛り込む必要が出てきます。
この記事では、任意売却取引での不動産売買契約書の5つの必須チェックポイントをご紹介します。
任意売却の不動産売買契約書の必須チェックポイント①:任意売却の手付金について
担保不動産の任意売却では、売買契約締結と同時に売買代金の決済も行ってしまうという、いわゆる一括決済を行うことがよくあります。
それは任意売却では決済が終わるまで何が起こるか分からないからです。
- 手付金の授受の後で売主である不動産所有者が行方不明になってしまう
- 当事者の一方的都合により契約解除となってしまう
- 担保権者のなかに決済時に爪を伸ばして解除料を上乗せしてきて決済が流れてしまう
などさまざまなことが決済までに起こるリスクを含んでいるのが任意売却だといえます。
一般の不動産売買のように『手付金の放棄や手付金の倍返し』によって契約を解除するというわけにはいかない場合が多いです。
またそもそも売主には倍返しする資金がある可能性は低いのです。
そのような理由もあって最初から手付金の授受は行わず一括決済としたほうが合理的な面もあるのです。
任意売却の不動産売買契約書の必須チェックポイント②:任意売却の違約金について
不動産の任意売却では売買契約書に、
『いかなる理由で契約解除となった場合でも、売主買主お互いに何の責任も負わない』旨の特約を付けておくことが必要です。
理由は任意売却ではチェックポイント①でも申し上げた通り何が起こるか分からず履行が不能になるケースも多いからです。
経験上では、
- 後順位担保権者が解除料について同意していたにもかかわらず、決済日直前になって突然その上積みを要求してきたため決済が流れた
- 決済日当日に新しい差押えが入ってしまったため決済を行うことができず決済延期となった
などのケースがありました。
買主には何かあって決済が流れても誰も責任を取れないということを理解した上で購入するということを、重要事項説明書と売買契約書できちんと説明しておく必要があります。
任意売却の不動産売買契約書の必須チェックポイント③:任意売却での公簿と実測が違う場合
測量を実施して引渡しを行うケースもなくはありませんが、任意売却では基本的には公簿面積での売買になります。
なので、『登記簿による売買であり、たとえ差異が生じてもあらためて精算はしない』という旨を売主買主双方にきちんと了承「してもらった上で売買契約書に明記しておく必要があります。
任意売却の不動産売買契約書の必須チェックポイント④:任意売却での売主の契約不適合責任について
建物に雨漏りが発生しているなど、担保不動産に重大な瑕疵がある場合には、売主は買主に対して告知を行い補修をするという義務があります。
しかし、任意売却では売主に補修をする金銭的余裕がないのが普通であるため、そのような瑕疵があることをしっかりと告知した上で、売買価格に反映させるほか仕方がないことになります。
万が一、売主がまったく知らなかった瑕疵が売買後に発覚した場合でも、買主に負担してもらうしかありません。
売主が破産管財人の場合には、破産管財人は売主の契約不適合責任を一切負わないという旨をうたった売買契約が行われるのが一般的です。
無用なトラブルを避けるために、事前に購入希望者に対してはっきり瑕疵担保責任を負えない旨を伝えておき売買契約書に明記しておくことが重要です。
任意売却の不動産売買契約書の必須チェックポイント⑤:任意売却での契約解除条項について
任意売却の不動産取引で事前に売買契約を行う場合は、売買契約の無条件解約の条項を付けておきます。
- 裁判所の許可が下りない
- 担保権者がどうしても解除料で抹消しない
など、任意売却は通常の不動産取引ではないからです。
何か問題があったときにいつでも白紙解除できるように、無条件白紙解約の解除条件付き契約にしておくべきです。
おわりに
任意売却の不動産売買取引は通常の不動産売買とは違います。
- 利害関係者が多く決済当日まで何があるかわからない
- 何かあったとしても売主には責任を取る金銭的余裕がない
ということがほとんどです。
もし何かあったとしても売主・買主・利害関係者それぞれが責任を取らないということを任意売却の売買契約書にはうたっておく必要があるのです。
任意売却の基本的な考え方は、
『最終決済してなんぼ』
です。
決済して所有権が移り、抵当権や差押えが外れて初めて取引になるのです。
それまではたとえ売買契約書を調印していようが、約束ごとをしていようがいつでも白紙解除できるものであると認識していれば大きな間違いありません。