
債務者が多くの借金をしていたりして債権者の数が多く、債務者所有の不動産にも抵当権や根抵当権や差押え登記などが多くついている場合があります。
債権者の数が多ければ多いほど、差押えの数が多ければ多いほど任意売却をまとめることはとても大変になります。
任意売却をまとめるのに一番必要なことは利害関係者である各債権者が合理的に納得できる配分計画を提案することです。
そしてすべての債権者がその配分計画での任意売却に同意しなければ任意売却を行うことはできません。
ただ任意売却を行う以上、すべての債権者に対して満額回答することは不可能です。
債権者ごとにある程度の損切りをしてもらわなければいけません。
債権者の数が多い任意売却が債権者の同意が取れてまとまるか、まとまらずに決裂して競売の道へ突き進むかは任意売却の経験と実績がものをいう部分でもあります。
ここでは次のような複数の債権者がいる任意売却の成功事例について具体的に見てみましょう。
- 任意売却価格:5000万円[a][競売想定価格3500万円]
- 諸費用:300万円[b]
- 配分可能金額:4700万円[a]-[b]
【配分案】配分合計額:4700万円
- A銀行 2000万円(根抵当権極度額2000万円)
- B銀行 1500万円(根抵当権極度額1500万円)
- C銀行 1120万円(根抵当権極度額2000万円)
- D商社 50万円(根抵当権極度額1000万円)[解除料]
- E銀行 20万円(仮差押え)[解除料]
- 税金 10万円(差押え)[解除料]
この記事では、5つの債権者と税金差押がついていた任意売却の成功事例をご紹介します。
5つの債権者と税金差押がついていた任意売却の成功事例
複数の担保権者がついている不動産の任意売却では最後の配当を受ける担保権者が後順位債権者の解除料を負担するというのが一般的な任意売却の考え方です。
もし任意売却に後順位債権者が同意せず競売になったとすると、下位の後順位債権者はゼロ配当となる可能性が高いです。
なのでゼロ配当よりは妥協案として任意売却に同意してもらえれば後順位債権者に対しても解除料を支払いますよという任意売却の債権者交渉になります。
上位の債権者は競売でなく任意売却できれば解除料を払ったとしても手取りが多くなればいいという算段です。
任意売却で債権者に提示した配分計画
もう一度冒頭の配分案で考えていきます。
- 任意売却価格:5000万円[a][競売想定価格3500万円]
- 諸費用:300万円[b]
- 配分可能金額:4700万円[a]-[b]
【配分案】配分合計額:4700万円
- A銀行 2000万円(根抵当権極度額2000万円)
- B銀行 1500万円(根抵当権極度額1500万円)
- C銀行 1120万円(根抵当権極度額2000万円)
- D商社 50万円(根抵当権極度額1000万円)[解除料]
- E銀行 20万円(仮差押え)[解除料]
- 税金 10万円(差押え)[解除料]
任意売却に債権者が同意するまでの交渉過程
本件担保不動産は、任意売却によって5000万円で売却できると仮定します。
諸費用が300万円であるとして、これを差し引くと配分可能金額は4700万円となります。
A銀行とB銀行は、根抵当権設定極度額が配分可能金額の範囲内にあるので、満額の配当を受けることができます。
C銀行はこの任意売却で配当を受けられる最後の抵当権者になります。
なお競売になった場合を想定すると、その競売想定価格は3500万円であるため、C銀行の配当がゼロになるおそれが非常に高いということができます。
このことから、この任意売却によって最も利益を受けるのは、ほかならぬC銀行であるといえます。
したがって、C銀行以下の劣後の後順位抵当権者等への解除料は、C銀行の配当分から拠出するのが合理的だといえます。
D商社は配分が回らないため、解除料がいくらになるかという話になります。
ここでは50万円を配分しています。
E銀行の仮差押えは抵当権より弱い権利と考え、20万円を配分しています。
税金の差押えはそもそも無益な差押えであり、本来であれば差押えをしてはならないものです。
このケースでは10万円を解除料として配分し、差押えの解除を交渉します。
任意売却は債権者の数が増えるほど同意を取り付けるのが大変になる
どうでしょうか?
担保不動産の任意売却においては、
- 不動産の価格が低ければ低いほど
- 債権者の数が多ければ多いほど
配分案の調整が難航しやすくなることが分かると思います。
逆に、
- 不動産の価格が高ければ高いほど
- 債権者の数が少なければ少ないほど
任意売却における配分案の調整はやりやすくなることが分かると思います。
債権者としては担保不動産を任意売却するときが債権回収の最初で最後のラストチャンスであることも多いので、その一発でできるだけ回収したいと考えるからです。
おわりに
これらのように、担保権の順番や額を基本として抵当権等の強弱を勘案しながら、原則に従って公正な配分案を作成すれば、利害関係人全員の理解が得られやすくなり、任意売却が成功して債権者の債権回収の極大化を図ることができます。
ひいてはそれが債務者にとっては返済額の最大化と残債務の最小化につながるのです。
任意売却をまとめるのに一番必要なことは利害関係者である各債権者が合理的に納得できる配分計画を提案することです。
こういうケースがまとまるかまとまらずに決裂して競売の道へ突き進むかは任意売却の経験と実績がものをいう部分でもあります。