家賃を滞納した入居者を簡単に追い出すことはできるのでしょうか?
残念なことながら、答えはNo!です。
日本の法律では、たとえ問題入居者であっても追い出すことは簡単ではありません。
家賃滞納が発生すると、
- 予定していた収益が確保できない
- 居座られると将来に向かって損失が拡大
- 未収期間も損益では売上計上され課税対象
- 売却する際の価格査定にマイナス
などの悪影響が多々発生します。
入居者が家賃を滞納しているからといってすぐに一方的に大家側から追い出すことは法律で禁止されています。
悪質な家賃滞納入居者であっても立ち退かせるにはしかるべき手続きを適切に踏む必要があるのです。
悪質な家賃滞納入居者を立ち退かせる手続きとそれに要する期間くらいは大家として知っておくべきです。
この記事では、悪質な家賃滞納者を裁判と強制執行で適切に立ち退かせる5つの手順と立ち退き完了までに要する期間についてご紹介します。
目次
悪質な家賃滞納者を裁判と強制執行で適切に立ち退かせる5つの手順と立ち退き完了までに要する期間
家賃を滞納したらすぐに立ち退かすことは可能なのか?
家賃を滞納するような悪質な入居者は、もはや不動産投資家さんにとってはお客様ではないです。
一日も早く追い出して、次の人に貸したいと誰もが考えるものですが、日本の法律がそう簡単にこれを許してはくれません。
借地借家法の壁
日本には『借地借家法』という法律があり、不動産投資もこの法律が適用されます。
借地借家法は、賃貸人よりも賃借人が社会的弱者であるとしてその保護を目的とする法律であるため、ほぼすべての規定が賃借人に有利に設定されています。
そのため、家賃を1ヵ月分滞納したくらいでは賃借人の居住が保護されるため、たとえ賃貸人が家賃滞納を理由に『契約を解除』しても賃借人自らがすすんで出ていかない限り追い出すことは事実上不可能です。
家賃滞納者を立ち退かす適切な5つのステップ
家賃滞納者が自ら退去することがあまりないため、法律にのっとり強制退去させるしかありません。
だからといって、勝手に部屋を開けて荷物を出してしまってはまずいので、段階を経て行う必要があります。
ステップ①内容証明郵便による最後通告
内容証明郵便によって、滞納家賃の最終支払通告と、支払いのない場合は賃貸借契約を解除する旨を記載し郵送します。
ステップ②建物明渡請求訴訟を提訴する
期日までに支払いが確認できなければ、訴状を作成し裁判所に提出します。
なお、建物明渡請求訴訟は、特段の取り決めがなければ『賃借人の住所地』を管轄する裁判所に対して手続きを行います。
ただし、通常は賃貸借契約において別途合意管轄裁判所が規定してありますので、そちらに提訴することの方が多いかもしれません。
なお、
- 滞納額が140万円以下であれば簡易裁判所
- 上記を超える場合は地方裁判所
の管轄となります。
ステップ③裁判
裁判期日になると、原告である賃貸人と滞納者である被告が裁判所に出廷します。
滞納金額などに争いがなければ、基本的にはいつ出ていくかの話し合いとなります。
1回の公判で和解がまとまらなければ数回にわたることもあり、最終的にまとまらなければ裁判所が判決を下すことになります。
建物明渡請求訴訟において判決によって明渡を認めさせるには、最低でも3ヵ月分以上の家賃滞納が必要と言われているので注意が必要です。
そして、滞納者が法廷に現れずかつ答弁書の提出もないような場合は、最初の公判で結審し、原告である賃借人の主張が全面的に認められることになります。
- 和解の場合は『和解調書』
- 判決の場合は『確定判決』
が裁判所によって作成され送付されてきます。
これらの書類は、
『債務名義』
と呼ばれ、これに従わない場合は強制的に従わせることができるという強い効力をもっています。
この債務名義の獲得が、建物明渡請求において最も重要なポイントとなります。
ステップ④強制執行
滞納者が和解や判決で決めた期日までに、自主的に退去しない場合は、強制的に退去させることになります。
まずは裁判所に対して、強制執行の申立を行います。
この際に、『債務名義』が必要になります。
その他に、
- 執行文の付与
- 配達証明書
も必要になりますが、これについても同じく裁判所において手続きを行います。
強制的に建物を明け渡すということは、部屋から荷物を出すことになりますから、それなりの人手が必要となります。
これに当たり、賃貸人は裁判所に対して予納金として7万円程度を支払うことになります。
この費用は後日滞納者に請求されますので、そこから回収されれば戻ってくることになっています。
ステップ⑤断行日
実際に滞納者を部屋から追い出す日のことを断行日といいます。
強制執行の申立から2週間程度で明渡し催告日となり、そこからさらに1ヵ月後が断行日となります。
断行日当日は裁判所の執行官と業者らと一緒に物件現地まで行き、強制的に物件から荷物を全部出してカギを交換して完了となります。
また、運び出した荷物はその場に放置されるわけではなく、裁判所が一定の場所に1ヵ月程度保管し、その間に賃借人が取りにこなければ売却するか処分することになります。
ここまでで、建物の明け渡しがやっと完了となります。
まとめ
- 家賃滞納者が自主的に退去しない場合は、最初の内容証明郵便の送付から明渡完了まで半年以上かかる可能性がある。
- 家賃滞納が発生したら、3ヵ月以上滞納した時点で、早めに手続きを始めることで損失を少しでも少なくする。
- 管理会社や保証会社が入っていないときは、自分で対応するか、明渡訴訟を弁護士に依頼することになる。