投資計画・シミュレーション

レントロールを精査してより精度の高い購入判断を行うための投資分析と収支シミュレーションの具体的手法

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不動産投資において収益物件の購入判断に大きな影響を与えるのが『レントロール』だと思います。

収益物件の購入検討時のレントロール資料は、その収益物件の現状のありのままを示していることがほとんどです。

ただし、あくまでこの時点でのレントロールは現状の実際の収支状況を示しているだけで、

  • それがもっと良くなる余地があるのか?
  • はたまた悪くなる余地があるのか?

ということは、ここからは判断できません

このレントロールを精査して将来に渡っての投資分析と収支シミュレーションを行うことで、より精度の高い購入判断ができます。

具体的には、

  1. 家賃の引き直し
  2. 空室損の考慮

の2つでレントロールの精査を行うことで、購入を検討している収益物件のレントロールを将来に渡って精査でき、より精度の高い投資分析と収支シミュレーションをもって購入判断を進めることができるのです。

今回シミュレーションする収益物件の購入資金計画と初期の収支・投資分析

今回シミュレーションする収益物件は、

  • 築4年
  • RC造
  • 総戸数8戸
  • 表面利回り9.24%

購入資金計画は下記のとおりです。

購入総額
物件価格 ¥71,500,000
諸費用(概算)   ¥7,000,000
合計 ¥78,500,000
内訳
自己資金 ¥14,200,000
ローン ¥64,300,000

 

事業計画書の数値をもとにした収支・投資分析は下記のとおりで、申し分ない分析結果となっています。

満室想定賃料(月額)
現況賃料 ¥551,000
   
収入合計 ¥551,000
支出の部(月額)
共用部BM費 ¥30,000
共用部光熱費 ¥15,000
固定資産税・都市計画税 ¥41,667
賃貸管理料 ¥40,499
予備経費 ¥0
支出合計 ¥127,165
収支(年額)
GPI ¥6,612,000
▲OPEX ¥1,525,982
NOI ¥5,086,018
▲ADS ¥3,909,584
 CF ¥1,176,434
投資分析
LTV 81.91%
CCR 8.28%
FCR 6.48%
表面利回り 9.25%
K% 6.08%
レバレッジ ポジティブ
BE% 82.21%
最低稼働戸数 6.58戸
DCR 1.30
PB 12.07年

調達コストK%6.08%<総収益率FCR6.48%<自己資本収益率CCR8.28%となり、レバレッジがきちんと効いている形となっています。

レバレッジを効かせながらも、DCR(負債支払安全率)は1.30となっており、投資の安全性も確保されています。

この数値が実態を反映したものであれば、築浅でRCの即決で買わなければ損な収益物件だとこの時点ではいえるでしょう。

 

レントロールの家賃を引き直した投資分析と収支シミュレーション

各部屋の家賃を現状から1割ダウンで引き直した場合の事業計画を見てください。

満室想定賃料(月額)
現況賃料 ¥496,000
   
収入合計 ¥496,000
支出の部(月額)
共用部BM費 ¥30,000
共用部光熱費 ¥15,000
固定資産税・都市計画税 ¥41,667
賃貸管理料 ¥36,456
予備経費 ¥0
支出合計 ¥123,123
収支(年額)
EGI ¥5,952,000
▲OPEX ¥1,477,472
NOI ¥4,474,528
▲ADS ¥3,909,584
 CF ¥564,944
投資分析
LTV 81.91%
CCR 3.98%
FCR 5.70%
表面利回り 8.32%
K% 6.08%
レバレッジ ネガティブ
BE% 90.51%
最低稼働戸数 7.24戸
DCR 1.14
PB 25.14年

いかがでしょうか?

現況の賃料が新築時の家賃のままであると想定し、今後において入居者が入れ替われば、そのままの家賃では埋まらないと想定しました。

家賃設定を各部屋において1割ダウンし、引き直したうえで満室想定の投資分析を行っています。

その他の数値は変化させていません。

家賃が1割ダウンしただけで、調達コストK%6.08%>総収益率FCR5.70%<自己資本収益率CCR3.98%となり、レバレッジが効いていない形となっています。

また、DCR(負債支払安全率)は1.14とり、当初の1.30よりも低下し投資の安全性も低下しています。

特筆すべきは、CCRを落としてレバレッジがネガティブになっているにもかかわらず、DCRが低下していることです。

通常CCRを高めてレバレッジを効かせてハイリスクハイリターンにしていくほど、DCRが低下して投資の安全とが低下しますが、今回はCCRの低下にともなってDCRも低下してしまっています。

言い換えれば、ローリターンになったのに、投資自体はハイリスクになったということです。

ハイリスク・ローリターンというあまりよろしくない投資になってしまっていることをものがたっています。

直接の原因は、家賃の引き直しによる年間収入の1割ダウンにより、NOI(NET収入)が低下していることです。

たった1割家賃を引き直すだけで、投資分析が正反対になってしまうという良い事例です。

 

レントロールの家賃引き直し+空室損を考慮した投資分析と収支シミュレーション

家賃引き直しの投資分析に、さらに空室損を考慮した投資分析を行います。

なぜなら賃借人の入れ替わりは必ず起こり、常に満室稼働という状況はあり得ないからです。

想定賃料(月額)
現況賃料 ¥496,000
 ▲空室損5% ¥24,800
収入合計 ¥471,200
支出の部(月額)
共用部BM費 ¥30,000
共用部光熱費 ¥15,000
固定資産税・都市計画税 ¥41,667
賃貸管理料 ¥34,633
予備経費 ¥0
支出合計 ¥121,300
収支(年額)
EGI ¥5,654,400
▲OPEX ¥1,455,598
NOI ¥4,198,802
▲ADS ¥3,909,584
 CF ¥289,218
投資分析
LTV 81.91%
CCR 2.04%
FCR 5.35%
表面利回り 8.32%
K% 6.08%
レバレッジ ネガティブ
BE% 94.89%
最低稼働戸数 7.59戸
DCR 1.07
PB 49.10年

家賃引き直しに空室損5%を想定すると、CCRが2%まで低下してしまいました。

それでいて、安全率のDCRは1.07と低下し、逆ザヤの損益分岐点である1.00に迫ってきてしまいました。

1,420万円の自己資金を投下して、ローンを6,430万円借入れて、それで年間のキャッシュフロー(CF)が28.9万円では投資の意味はあまりないといえるでしょう。

また、BE%が94.89%で最低稼働戸数が7.59戸ということは、総戸数8戸のこのマンションでは、常にほぼ満室稼働でないと投資が成り立たないということを示しています。

 

レントロールの家賃の引き直しをせずに空室損だけを考慮した場合の投資分析と収支シミュレーション

家賃の引き直しの判断がつきにくい場合には、物件概要書をもとにした投資分析に空室損を入れてみて判断します。

空室損は若干高めの7%で考慮します。

総戸数8戸の場合は1戸空いても12.5%ダウンするので、10%くらいで見ても良いかもしれません。

想定賃料(月額)
現況賃料 ¥551,000
▲空室損7%  ¥38,570
収入合計 ¥512,430
支出の部(月額)
共用部BM費 ¥30,000
共用部光熱費 ¥15,000
固定資産税・都市計画税 ¥41,667
賃貸管理料 ¥37,664
予備経費 ¥0
支出合計 ¥124,330
収支(年額)
EGI ¥6,149,160
▲OPEX ¥1,491,963
NOI ¥4,657,197
▲ADS ¥3,909,584
 CF ¥747,613
投資分析
LTV 81.91%
CCR 5.26%
FCR 5.93%
表面利回り 9.25%
K% 6.08%
レバレッジ ネガティブ
BE% 87.84%
最低稼働戸数 7.03戸
DCR 1.19
PB 18.99年

いかがでしょうか?

家賃の引き直しをしなくても、空室損を考慮するだけで、レバレッジはネガティブ、DCRは低下するという結果となってしまいました。

BE%が87.84%で最低稼働戸数が7.03戸となり、この収益物件は満室想定の状態がずっと続かなければ成り立たないと判断することができます。

せめて空室損を考慮した状態でレバレッジはポジティブ(効いている)、DCRは1.30前後というあたりを確保しておきたいところです。

 

この投資分析結果をふまえてこの収益物件を検討したい場合

上記分析を見て、そのうえでこの物件を検討したいという場合は、

  • 借入額を減らして自己資金を増やす
  • 借入金利をできるだけ低いところで借入する
  • 物件の価格交渉を行い物件価格を下げる

を行って、NOI(NET収益)とCF(キャッシュフロー)を増やすことが必要です。

借入額を減らす、金利を下げることで、ADS(借入返済額)が減るのでCFが増えます。

物件価格を下げれば、同じ自己資金額であれば借入額を減らすことにつながります。その結果CFが増加し、CCRも増加する結果となり、レバレッジが効いた状態になりやすくなります。

別の言い方をすれば、この物件はこのままの状態では『高い』といえるかもしれません。

融資条件や自己資金でがんばっても投資分析が改善しないのであれば、物件価格自体が高めの設定になっていると言わざるを得ないからです。

よく表面利回りで物件価格が高い・安いと判断することがありますが、それはほんの一面を見ているだけてあり大変危険です。

なぜなら、この物件も当初の表面利回りは9.25%だからです。

即決で買わなければ損だと私も書いてしまっているくらいです。

その物件が近い将来、年間CFが28万円になるかもしれないというのだから驚きです。

家賃引き直しと空室損を考慮した投資分析と収支シミュレーションの重要性が浮き彫りになったといえるでしょう。

 

もし買ってしまってから失敗に気づいた場合

物件を購入してから、あらためてシミュレーションしてみて失敗に気づいたという場合は、取ることができる戦略は限られてきます。

  • CFが出ているうちに繰り上げ返済を行い、借入額を圧縮する
  • CFが出ているうちに売却して利益の確定を行う
  • CFが出ているうちに資産の入れ替えを行う

結論から言えば、条件の良いうちに売却するのが一番安全ですが、難しい場合は、収益を優先的に借入返済に回すことで、ADS(年間返済額)を圧縮して、少ないNOIでもCFが出るような収支体質にすることです。

ただ、投資ポートフォリオ全体の縮小は免れませんので、やはり、資産の入れ替えを視野に入れて、売却を模索することが必要になると思います。

 

おわりに

レントロールできれいな数字が並んでいてこれは高収益の物件で掘り出し物だと思ってもそれだけで飛びつくのは危険です。

レントロールは収益物件のあくまで現況の賃料の収入状況を示しているだけのものだからです。

上記のように、

  • 家賃の引き直し
  • 空室損の考慮

を想定してレントロールを精査し、より緻密な将来に渡っての投資分析と収支シミュレーションを行うことで、『こんなはずじゃなかった』という失敗を未然に防ぐことができるのです。

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