不動産投資における収益物件の売買で大阪方式(関西方式)『敷金持ち回り』と呼ばれる預かり金の引継ぎ方法があることをご存知でしょうか?
簡単にひとことで言うと『売買代金以外の金銭授受は無し!』ということになります。
全て『込み』の価格設定だということです。
この大阪方式(関西方式)の『敷金持ち回り』というのは、なぜか関西エリア(特に大阪近郊)だけでまかり通っていて、関西人はそれが普通だと思っています。
それこそ全国共通と思っているフシまであります。
関西地区、特に大阪では当たり前の取引慣習なのですが、それ以外の地域の人が初めて大阪の物件を購入する際に理解に苦しむケースがとても多いです。
『持ち回り』という表現がどっちにも取れるというのが一番問題なのかなとは思いますが、関西以外のエリアの不動産会社の担当者ですらよく分からないと食ってかかってくることもあるくらいのややこしさです。
これを知らないと引き継ぐことができると勝手に見込んでいた敷金や保証金などの返還債務のある預かり金が引き継ぎがないということを後で知って慌てることになります。
関西の人はこの『持ち回り』方式に慣れているのでなんとも思わないのですが、特に東京の人が関西の収益物件を購入する際に大阪方式(関西方式)の『敷金持ち回り』という取引慣習の違いにとても違和感を持たれることが多いです。
不動産投資において収益物件の売買では一般的に賃貸人と賃借人の契約は引き渡し時に売主から買主に引き継がれます。
家賃の引継ぎに目が行きがちですが、敷金や保証金などの預り金の引継ぎの取り扱いについてもしっかりと把握しておくことが必須です。
賃借人は売主に敷金を預けているはずですが、売買によって収益物件の所有権が買主に移転した場合、敷金はどのように扱うのかを理解することがポイントとなります。
また大阪方式(関西方式)といって大阪近郊の関西エリアで行われる『敷金持ち回り』といわれる敷金などの預かり金の返還債務に関する慣習も理解しておくことが必要です。
『持ち回り』という言葉を額面通りに受け取ると預かり金そのものを引き継ぐのかと思われがちですが実は『持ち回り』方式で引き継ぐのは預かり金の返還債務のみとされますので注意しましょう。
この記事では、大阪方式(関西方式)の『持ち回り』とは敷金や保証金の返還債務のみを引き継ぐ取引慣習なので注意が必要なことをご紹介します。
大阪方式(関西方式)の『持ち回り』とは敷金や保証金の返還債務のみを引き継ぐ(持ち回る)取引慣習なので注意する
大阪方式(関西方式)における収益物件の売買に伴う敷金持ち回りの取り扱いの注意点
賃借人は賃貸物件を借りる際に売主との間で賃貸借契約を締結し売主に対して敷金を預け入れています。
仮にこの時の敷金が家賃の1ヵ月分だとして、この状態で売主が買主に対して収益物件を売却するとします。
この場合、賃借人との間の賃貸借契約は買主が継承することになります。
つまり、売主の賃貸人としての地位を買主がそのまま引き継ぐことになります。
そのため売買によって収益物件の所有権が買主に移転すれば買主は正式に新しい大家さんとなります。
その後、賃借人が退去するという話になれば、買主である新しい大家さんが敷金1ヵ月分を賃借人に返還しなければなりません。
そのため賃借人がいる収益物件を購入する際には、収益物件と一緒に売主が持っている『敷金』も買主に移転させなければならないことになっています。
敷金はいつ売主から買主に移転させるのか?
通常では、不動産売買の決済時にその明細に敷金の金額を盛り込みます。
実務上は金銭の授受の簡素化を図るために、決済時に敷金分を差し引いた残代金の精算書を買主に渡したりします。
これにより、事実上、売主から買主に敷金が動いたことになります。
そして買主は将来賃借人が退去するときに、この売主から引き継いだ敷金を返還すればよいことになります。
大阪方式(関西方式)では敷金や預り金の授受を行わない『敷金持ち回り方式』を採用
これも大阪だけで行われている慣例なのですが、『大阪方式』といって決済時に売主から買主に対して敷金や預り金の授受を行わない方式です。
関西、特に大阪でよく行われるので『大阪方式(関西方式)』と呼ばれます。
考え方ですが、通常であれば決済時に敷金の授受の代わりに精算を行うのですが、『大阪方式』ではそれも物件価格の中に込みになっているという考え方です。
決済時に別途現金の授受や精算は行わず返還金の債務だけは売主から買主に引き継がれるという内容となります。
当然、その後に賃借人が退去する際には買主が敷金を返還しなくてはいけません。
なぜ大阪でだけそうなっているのかは不明ですが、そういう慣習なのでいつも通りと思って決済すると、差し引いてくれると思っていた敷金分が差し引かれずに決済することになります。
その結果大きな物件ほど敷金の金額も高くなるため、なんだか損した気分になると言われます。
返還しない保証金はどう扱うのか?
物件によっては敷金ではなく、『保証金』という名目で賃借人からお金を預かっている場合があります。
実務上の意味としては敷金とあまり変わりませんが、保証金の場合は退去時に賃借人に返さないことになっている場合もあります。
これは保証金に限ったことではなく、敷金の場合でも、『退去時に1ヵ月分償却』といった契約内容になっている場合があります。
こういった場合は、一般的には『賃借人に返す必要のない性質の金銭』については、売主から買主へ引き継がないことになっています。
なぜなら税務上返還をしないことをあらかじめ取り決めている金銭については、その年の不動産所得として税務署にすでに確定申告しているためです。
要するに税務上は、返還しない保証金や敷金は礼金と同じようにその時点で売り上げに計上されていることになります。
そのため返還しない保証金や敷金は買主には引き継がれません。
収益物件の不動産売買で敷金の引き継ぎトラブルは起こりやすい
通常、上記のようにして敷金を売主から買主に継承すれば特段トラブルは発生しません。
しかし、注意が必要なのは売主自身が別途敷金を保管していない場合です。
例えば不動産業者に管理委託していたりサブリース契約をしているような場合は、敷金を売主本人ではなく不動産業者が保有しているケースがあります。
このようなケースでは、買主も引き続き同じ不動産業者と管理委託契約やサブリース契約を結ぶのであれば、敷金を動かさなくても問題ありません。
もしも買主が別の不動産業者に管理を委託することを条件に購入するような場合については、あらかじめ管理会社である不動産業者から敷金を売主口座に戻してもらわなければならないことになります。
ですが、現管理会社からしてみれば管理物件が減ることになるため場合によってはすんなりと応じてくれなかったり、管理委託契約の解除手続きの書類をすべて取り交わした後でなければ返還に応じないというようなこともあります。
売買の仲介不動産会社が敷金は売主が保管していると思い込んで勘違いしているケースもあります。
そのため、決済の直前になって売主が通帳を確認してはじめて敷金が管理会社に保管されていることが発覚し、決済までに急いで戻してほしいのに現管理会社側との解約の手続きに手間取って決済に間に合わなくなったりすることが起こったりします。
そのため、賃借人付きの収益物件を売買する際には、あらかじめ敷金を誰が保管しているのかしっかりと確認しておくことを忘れないようにする必要があります。
おわりに
- 敷金の返還義務は、所有権移転にともなって、売主から買主に引き継がれる。実務上は敷金の明細を別途用意し、決済代金から差し引く形で敷金の移転を行う。
- 『持ち回り』という言葉を普通に解釈すると敷金や保証金を引き継げると思われがちですが引き継ぐのは返還債務だけになるので注意が必要。
- 大阪方式では、敷金の返還義務だけが売主から買主に引き継がれ、金銭の授受や決済代金からの差引を別途行わない慣習となっている。つまり、物件代金自体がもともと返還債務を差し引いた価格になっているという考え方になる。
- 返還義務のない償却する保証金や敷金は、基本的には引き継がない。