収益物件の物件概要書で、
『売主瑕疵担保免責』『契約不適合責任免責』
というくだりを見かけることが多いのではないでしょうか?
不動産投資用の収益物件や事業用不動産の売買ではよくあることなのですが、
- 建物に不具合があっても知りませんよ
- 建物が大丈夫かどうかは自身で判断してくださいね
という条件で売買を行いましょうという不動産売買における取り決めのことです。
慣れていればたいしたことではないのですが、初めて聞くと『?』となることもあると思います。
特に初心者のうちは、よく分からない用語が出てきたら絶対にスルーしてはだめです。
契約不適合責任免責(瑕疵担保責任免責)物件購入時のポイント①:不動産売買における瑕疵担保責任とは?
瑕疵担保責任の『瑕疵』とは、簡単にいうと『欠陥』のことです。
よく欠陥住宅などと言います。
不動産の場合の『瑕疵』とは、
- 通常有すべき性能が欠けている
- 生活に支障が出る
ような欠陥のことをいいます。
最初から欠陥住宅と分かっていれば買わない、もしくは大幅に安くしてもらうなどになります。
なので、ここでいう『瑕疵』とは不動産の売買時には気が付かなかった『隠れた瑕疵』のことを言います。
ちなみに、
- 境界の確定のミス
- 道路の接道など建築基準法上の不備
- 地下埋設物や土壌汚染
などは『瑕疵』ではなく売買契約時の重要事項説明の不備になります。
『瑕疵』として認められるのは、
- 構造耐力上の主要な部分
- 雨水の侵入を防止する部分
となります。
主に建物の、
- 基礎
- 柱
- 梁
- 壁
- 屋根
などが該当します。
それ以外の内装などの部分は隠れていないので自身でチェックすることが必要となります。
実際は『構造耐力上の主要な部分』で欠陥が発生することは少なく、大抵の場合は『雨水の侵入を防止する部分』の欠陥になります。
築古アパートなどでは、
- 雨漏り
- シロアリ
- 木部の腐食
などがよく出てきます。
上記のような『瑕疵』を『担保する』、簡単にいうともしものことがあった場合に保証することが『瑕疵担保』だと考えてください。
つまり『瑕疵担保』といえば『不動産に隠れた欠陥があった場合の保証』というような意味です。
そして『瑕疵担保責任』とは『不動産に隠れた欠陥があった場合の保証をする責任』という意味になります。
誰がこの責任を負うのかというと、不動産の『売主』となります。
契約不適合責任免責(瑕疵担保責任免責)物件購入時のポイント②:瑕疵担保責任を免除するとは?
瑕疵があっても保証なしのノークレーム・ノーリターン商品だということです。
- 物件概要書
- 重要事項説明書
- 売買契約書
などに、
『売主の瑕疵担保責任を免除する』
の一文が盛り込まれているケースは多いです。
要するに『売主の瑕疵を担保する責任を免除しますよ』という意味です。
言い換えると『売った不動産にあとから何かあっても、売った人はそれを保証する責任を負いませんよ』という意味になります。
家電製品などで『この商品には保証書はつきませんよ。ノークレーム・ノーリターンでお願いします』と言っているのと同じことになります。
- 中古の収益物件
- 売主が個人
の場合はほぼ100%の売買契約において『瑕疵担保責任を免除する』という一文が盛り込まれています。
なので、この一文がある不動産を購入する際には事前に不動産を細かくチェックしておかなければならないことになります。
しかし、中古収益物件の流通の現場では良い収益物件はすぐに売れてしまうため、建物を微に入り細に入りチェックするなどなかなかできないのが現実です。
つまり、瑕疵担保免責の収益物件では、
『ある程度の建物のリスクを背負って投資を始める』
ということを、頭できちんと理解しておく必要があります。
また、そういった建物のリスクをある程度カバーしてくれるのが火災保険なのです。
瑕疵担保免責の投資用不動産で火災保険に入らないということは通常あり得ないことだといえます。
契約不適合責任免責(瑕疵担保責任免責)物件購入時のポイント③:瑕疵担保責任の期間は?
個人売主より不動産業者売主の場合の制限が厳しいです。
瑕疵担保責任を免除しない契約の場合は売主はいつまでこの責任を負い続けるのでしょうか?
これは売買契約の条件として、売主と買主双方の話し合いで任意に設定することができますが、売主が個人の場合は2~3ヵ月程度とすることが一般的です。
しかし、売主が宅建業者になると、
- 宅建業法
- 品確法
という2つの法律の制限を受けることになります。
宅建業者が売主になる場合は、不動産の専門知識が少ない買主側に不利になる恐れがあるため、買主保護の考え方により瑕疵担保責任については買主にとって不利となる条項を設定することはできません。
そのため、瑕疵担保責任期間についても個人の売主の時のように免除したり2~3ヵ月程度の短い期間に制限することができず、宅建業法上は『物件の引き渡しから2年以上』という制限が設けられています。
そのため、投資用不動産を売買している不動産会社の売買契約書のほとんどはこの瑕疵担保責任期間を最短の『2年間』としているのが普通です。
また、宅建業者が新築物件を売主として売買した場合については、さらに厳しい『品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)』の制限が規定されています。
この法律によると、建物の
- 構造耐力上の主要な部分
- 雨水の侵入を防止する部分
の瑕疵については、2年目以降に発覚することが多いため、この部分に関する瑕疵担保責任については、『引き渡しから10年間』負わなければならないという厳しいものになっています。
任意売却物件であっても建物状況のチェックは念入りにしたい理由
レントロールでの入居者の契約条件のチェックに加えて、注意しなければいけないのは、物件の建物の状況です。
特に中古収益物件の場合は何かしらの不具合のある可能性が高いので注意が必要です。
軽微な不具合であればそれほど問題にはなりませんが、大きな不具合は修繕のために莫大な費用を要し、利益が修繕費に吸収されてしまい、利益が出なくなってしまう可能性があるからです。
なので中古物件であれば建物に何かしらの不具合は必ずあると思って念入りにチェックしたいところです。
新築物件でも建物の不備があるくらいです。
しかし、新築の場合はデベロッパーが修繕費を見てくれることが多いです。
中古物件の場合はそうはいきません。
特に瑕疵担保免責で取引することが多いのでなおさらです。
基本的に不具合があれば、購入した買主が自己負担で修繕することになります。
物件を購入してから建物に大きな不具合があった場合、修繕のために莫大な費用を要し、利益が出なくなってしまう恐れがあるということです。
修繕の中でも、
- 給水管、排水管など配管関係
- エレベーター
- 耐震工事
などは修繕費用が高くつく傾向があります。
特に築年数の古いRC造の物件は注意が必要です。
なので、古い物件、特に昭和56年5月以前に建築確認を取った旧耐震物件などは、事前の念入りな建物調査が欠かせません。
物件の中身を分からないまま買うことをは大きなリスクとなります。
- 過去に水漏れがあったかどうか
- 屋上、外壁などの修繕履歴
- エレベーターの籠を替えているかどうか
など、修繕費が高くつきそうな部分の修繕履歴は可能な限り購入前に把握する必要があります。
建物の瑕疵が分かっていれば取得原価に修繕費を組み込む
物件の取得段階で、取得後に実施する必要がある工事が分かっていれば、取得原価に算入したうえで収支を計算すればよいことになります。
そうすることで、取得後の収支のブレが限りなく小さくなり、安心して収益物件の運用を行うことができるようになります。
なので、事前の建物調査を念入りに行うことは、中古収益物件の購入に際しては最重要事項となるのです。
また、修繕履歴とは直接関係はありませんが、中古物件の場合は建物図面がないケースが多く見られます。
売買契約にあたって関係図面があるかどうかを確認し、ある場合は売主から必ず引き継ぎます。
建築図面があれば、修繕だけでなくリフォームなどのときにも配管や配線関係が図面で分かるので、戦略的に行いやすくなるからです。
収益物件を購入してから大きな修繕箇所が見つかると、予期しない大きな出費が発生し、収支計画に重大な影響を及ぼします。
それを防ぐためにも、可能な限り物件購入前に建物の状況を念入りにチェックする必要があります。
不具合が事前に分かっていれば、その修繕にかかる費用を取得原価に組み込んで収支計算をして、そのうえで購入判断を行うことができます。
そうすれば購入したとしても、予期せぬ修繕費による収支の大きなブレを防ぐことができるということです。
購入前の収益物件の修繕状況の4つのチェックポイント
築年数の経過した中古収益物件は、どんな不具合が隠れているかわかりません。
特にオーナーチェンジの中古収益物件は部屋の中を見ることができないので心配は尽きません。
中古収益マンションやアパートを購入する前の劣化状況や修繕状況はどこをチェックすればいいのでしょうか?
結論は、
- 配管関係
- エレベーター
- 屋上防水
- 耐震工事
- 外壁塗装
などの修繕に高額な費用がかかる箇所の状況をできれば専門家を伴って確認することが必要です。
この記事では、購入前の収益物件の修繕状況の必須チェックポイントをご紹介します。
修繕状況チェックポイント①:できれば専門家と建物の状況調査を行う
中古の収益マンションや収益アパートは新築に比べて利益を出しやすいというメリットがありますが、その一方でリスクがあるのも事実です。
その最大のリスクは建物リスクです。中身を確認しないまま中古の収益物件を買うことは、大きなリスクを背負うということです。後で大きな不具合があった場合は、修繕のために莫大な費用を要し、利益が吹き飛ぶ恐れもあるからです。
実際、中古収益物件を取得後すぐに水漏れが発生し、修繕するのに数百万円単位以上の工事を余儀なくされるケースがあります。
ひどい場合だと、2億円の物件を購入し、配管の引き直しなどで5000万円の追加工事費用が発生することもあります。
これらのケースでは、物件取得時にそのような不具合を把握せず、知らされることもなく購入してしまったということがあります。
これではすでにスタート時点で投資は失敗しているようなものです。
特に古い物件(特に昭和56年5月以前に建築確認を取った旧耐震物件)は一級建築士などの専門家を伴って事前に建物の状況調査を行うことが必須といえます。
なかでも、RC造の物件は修繕費用も木造などに比べて破格の高額になるため要注意です。
冒頭でも紹介しました特にチェックするポイントは、
- 屋上防水
- 外壁塗装
- 給水管・排水管といった配管関係
(特に昭和築のRC造物件は鉄管の場合が多く錆びてしまうことで高額の工事費用がかかるケースがあるため要注意です) - エレベーター
(特にエレベーターのカゴを替えると高額になる) - 耐震工事
(旧耐震の物件は必要になる可能性がある)
などが挙げられます。
これらの工事は修繕費用が高額になる傾向があります。また、費用の問題ではなく、修繕が不可能な場合もあり得ます。
そしてこれらの修繕意外にもうひとつ怖いのが建物の傾きです。建物の傾きを直すとなると規模にもよるでしょうが数千万円単位の費用を覚悟する必要があります。
以上よりとにかく『物件を分からないまま買う』というのは非常に危険なことだと気付いて頂けたと思います。
このような調査を行うことで、そもそもその物件を取得してよいのかどうかの判断ができます。取得してよいとなったらその次にコストを考えます。
その修繕費用を物件価格に加えた総投資額で利益が出るかどうかを判断し、場合によってはその分を加味した値引き交渉を行う必要もあります。
修繕状況チェックポイント②:購入前に修繕履歴を把握する
中古収益物件を購入する前に、建物の調査と並行して建物の修繕履歴を可能な限り把握することも重要です。
- 過去にどんなトラブルがあったのか
- 雨漏りや漏水はないか
- どんな修繕を行ってきたのか
- エレベーターの保守状況
などを売主から確認します。
これは物件調査の一環という側面も持ちます。
たとえばもし給湯器が20年前のもので竣工後一度も交換していなければ、取得後にほぼ全て交換する必要が出てきます。防水工事を行ったのが20年前であれば、取得後すぐに雨漏りがして防水工事を行わなくてはならなくなるリスクがあるということです。
売主さんのなかには管理会社に任せきりで、ご自身で修繕履歴をあまりよく把握していない人もいますので、実際に物件の状況を把握している管理会社からもヒアリングを行うことが大切になります。
また、売買契約にあたっては、図面があるかどうかを確認し、ある場合は売主から必ず引き継ぐようにします。
図面があれば物件取得後に戦略的な修繕を行いやすくなるからです。
修繕状況チェックポイント③:保険を活用した修繕費用のリスクヘッジ
調査を行って、修繕履歴を確認したとしても、中古収益物件の場合は突発的な不具合が起こる可能性があります。その不具合に対してリスクをヘッジするために、火災保険を活用できます。
火災保険は何も火事に備えるだけのものではありません。火災保険に加えて地震保険に加入することはもちろん、特約をつけることで様々なリスクに対応することができるようになります。
火災保険の保険料はすべて経費計上できるので、惜しまずにしっかり備えておくことが重要です。
- 建物電気的・機械的事故特約・・・エレベーターや水道ポンプなど、電機や機械設備の故障が補償されます。
- 施設賠償保険・・・アパートやマンションの安全性の不備や構造上の欠陥によって、入居者などに損害を与え、大家に賠償責任が発生する場合に備えられます。保険料が安く保障が手厚いので、中古収益物件オーナーには特におすすめの補償特約です。
- 盗難・偶然な事故による破損・汚損・・・室外機の盗難や、引っ越し時に壁に穴が開いた、窓ガラスを割られたなどのケースに補償されます。
- 家賃損失補償特約・・・水漏れや火災などで建物が使用できず、家賃が得られない期間の損失が補償されます。
などが、リスクヘッジに活用できます。
修繕状況チェックポイント④:修繕計画は費用対効果を考える
物件を取得したうえでどのような修繕工事を行えばよいかというと、一言でいえば費用対効果を考えた工事を行うということになります。
不動産投資においては、利益の最大化という観点が最も大切で、ここが自宅などの実需物件と大きく違うところです。
自己満足ではなく、費用対効果を計算した数字に基づいた判断が求められます。どこをどの程度修繕していくのか的確に判断しなければいけません。
たとえば外壁の塗装などは、塗料の種類によってコストが大きく変わってきます。
長期保有を考えるのであれば、20年以上もつ塗料を使ってもよいのですが、減価償却を4年取った後に売却して資産を組み換えようと考えている場合には、化粧直し程度の塗装でコストを抑えた方が合理的だといえます。
また、空室が出れば部屋の現状回復費用がかかりますが、長期で入居していた部屋ほど設備も間取りも古くなっているものです。
その場合はフルリフォームも視野に入りますが、それで家賃がどのくらい上がり、どのくらいの期間でコストを回収できるのか、実際に客付をしている不動産管理会社の意見も聞きながら、適切なリフォームになるようにコストをコントロールすることが重要です。
中古収益物件を購入する最大のリスクは建物リスクです。中身を確認しないまま中古の収益物件を買うことは、大きなリスクを背負うということです。
後で大きな不具合があった場合は、修繕のために莫大な費用を要し、利益が吹き飛ぶ恐れもあるのて事前に一級建築士などの専門家と建物調査を行うことが望ましいといえます。
建物調査と並行して売主から今までの修繕履歴をどのような修繕をいつ行ったのかのヒアリングを行い、物件取得後に必要になる修繕を予測することが必要です。
そしてそのコストを加味して利益がでるかどうかの収支計算を行い購入価格を決めるという費用対効果の考え方を持つ必要があります。
不動産投資を趣味で行うのであれば自己満足の修繕でもよいが、事業として行うのであれば常に収益の最大化を考え、費用対効果の目線で修繕コストに関しても考える必要があります。
おわりに
- 『瑕疵担保責任』『契約不適合責任』とは、不動産の『構造耐力上の主要な部分』および、『雨水の侵入を防止する部分』における隠れた瑕疵を保証する責任を負うということ。
- 『瑕疵担保責任免責』『契約不適合責任免責』の場合は、上記の責任を売主は負わないということで、リスクは買主にあるということになる。買主は建物のリスクを背負って引き渡しを受けるため、火災保険への加入が必須となる。
- 瑕疵担保の期間は、個人の売主であれば、2~3ヵ月間での設定が多いが、宅建業者が売主の場合は宅建業法上、最低2年間の瑕疵担保期間を設けなくてはならないと規定されている。また、宅建業者が新築物件の売主となるときは、品確法により10年間の保証が規定されている。