工場などの事業用の不動産の任意売却では住宅の任意売却とは違って想定外の費用がかかり、債権者との配分交渉で費用の控除を認めてもらうのに骨が折れるケースがあります。
実際事業用不動産の任意売却ではさまざまな費用がかかります。
戸建住宅や分譲マンションなどの居住用の不動産の任意売却の場合はかかってくる費用は限定的です。
しかし事業用の不動産の任意売却の場合では居住用不動産の任意売却時よりも多くの種類の費用がかかることがあります。
それは時に多額にのぼることがあり、債権者としても慎重な検討を必要とします。
ただし回収額に相応の経済的合理性が認められるならば話は別になってきます。
この記事では、地方の工場物件の破産管財案件の任意売却で多くの諸費用を債権者に認めてもらえた任意売却成功事例をご紹介します。
地方の工場物件の破産管財案件の任意売却で多くの諸費用を債権者に認めてもらえた任意売却の成功事例
地方の工場物件での任意売却でさまざまな諸費用が控除されている任意売却の配分案を見ていきます。
【物件】
地方都市郊外にある繊維工場で一部賃貸あり。
破産管財物件である。
工場であり、任意売却が6ヶ月近く停滞している。
【任意売却価格】3億円
競売想定価格2億1000万円
早期処分見込不動産鑑定評価額2億2000万円
【諸費用明細】
- 建物取り壊し費用:1000万円
- 引越費用:50万円
- 測量費用:100万円
- 不動産仲介手数料:950万円
- 司法書士手数料[抹消費用]:10万円
- 不動産鑑定費用:20万円
- 契約書印紙代:8万円
- 破産財団組入金:900万円(3%)
- 残置物撤去費用:30万円
- 立ち退き費用:50万円(貸地解約料)
- 土壌汚染調査費用:400万円
- 保証金:100万円
- 固定資産税精算金:15万円
- 個人不動産譲渡税充当:500万円
費用合計:4133万円
【配分可能金額】2億5867万円
これだけ費用が控除されても、回収額に経済的合理性があれば任意売却を進めることができます。
本件任意売却に担保権者が応じた理由は下記の通りです。
- 配分可能金額が早期処分見込みの不動産鑑定評価を上回っている。
- 配分可能金額が競売想定価格を上回っている。
- 破産管財人が裁判所の許可を取って行う取引である。
- 任意売却を推進して6ヶ月が経過し、ようやく成約する見込みがある取引である。
- 競売となれば時間と費用がかかり、本件回収額以上の落札は見込まれない。
- 当地区の不動産市況は引き続き下落傾向にあり、広大地という物件特性を考えると早期売却をしたほうが得策といえる。
- 買主にファイナンスをつけることによりビジネスチャンスが拡大する。
- 本件処分により、破産債権の不足額が確定し、破産配当が受けられる。
今回のケースでは事業用の不動産で任意売却にかかる費用が通常より多くかかるとしても債権者の立場としてそのまま競売にするよりも経済的合理性があるのであれば応じてもらえる可能性はあるということを示しています。
不動産の特性として買い手がつくように障害を取り除いて物件化することに費用がかかったとしても、そのまま売却するよりもかかった費用分より高く売却できるということはよくあります。
費用倒れになってしまっては元も子もないですが、かけた費用分以上の費用対効果があると見込めるのであれば任意売却の際に費用として債権者に認めてもらうことで債権者へもより多くの金額を任意売却で配当することができるようになったという任意売却成功事例です。
おわりに
任意売却を進めるにあたって諸費用が多くかかってしまうケースも起こり得ます。
そのような場合でも客観的事実に基づいた経済的合理性があると担保権者が理解できれば任意売却を進めることができるという事例です。
特に不動産鑑定を使って、
- 競売想定価格
- 早期処分見込不動産鑑定評価額
を出しておくことで、多くの諸費用を控除した後でも競売を行うよりも配当が高いと担保権者が感じることができれば、抵当権の解除には応じてもらいやすくなり、任意売却がまとまる方向で話が進みやすくなります。