不動産投資を法人化すると、法人保険を使って節税ができるのをご存知でしょうか?
法人保険を使う最大のメリットは、
- 掛け金を損金計上して課税所得を圧縮して節税対策ができる
- 解約返戻金などの簿外資産を蓄えることができる
の2点です。
それでは、法人保険による効果を正しく出すためには、どのようなタイプの保険がどのような場面に適していてどのようなメリットがあるのでしょうか?
この記事では、不動産投資でよく使われる法人保険である、
- 逓増定期保険
- ガン保険
- 養老保険
- 長期平準定期保険
- 定期保険
- 収入保障保険
- 医療保険
- 終身保険
についてタイプ別の特徴を説明します。
逓増定期保険
逓増定期保険とは、保険期間満了までに保険金額が契約当初の金額から5倍まで増加する定期保険で、満期保険金がない掛け捨ての保険です。
逓増定期保険の最大の特徴は、解約返戻率が契約後早い段階で高率になることで、この特徴を活かして法人の財務強化対策や役員退職金の準備として活用することができます。
ポイントは解約返戻金が高率になる時期に解約することです。
解約返戻金を退職金に充てることもでき、この時期に大規模修繕を行うことで調整がしやすくなります。
保険期間
契約時の年齢によって制限されるが、100歳までいけるものもあります。
解約返戻金
逓増定期保険の解約返戻金は、契約後早い段階で高率になるのが特徴です。
数年で支払った保険料の100%に近い返戻率となるので、保険を掛けながら貯金をしているという形になります。
返戻率のピークを過ぎると徐々に解約返戻金は減っていき、最後にはゼロになりますので解約の時期をコントロールする必要があります。
解約返戻金の扱い
前払い保険料を差し引いた金額が雑収入となります。1,000万円の保険料を支払った場合は、50%分が前払い保険料として資産計上されています。
解約返戻金が保険料の100%の場合、前払い分を差し引いた500万円が雑収入扱いとなります。
税務上の取り扱い
逓増定期保険の多くは、支払った保険料の1/2を損金として処理できますが、満期時の年齢などによって、1/3や1/4というものもあります。
できるだけ損金が1/2のものを選ぶほうが節税メリットが大きくなります。
損金が1/2のケースでは、半分が支払い保険料として損金計上、半分が前払い保険料として資産計上となり、解約するときは解約返戻金と前払い保険料の差額が雑収入として計上されます。
逓増定期保険のメリットとデメリット
税引き前の利益が800万円を超えてきた場合などに課税を先送りにするのに最も使いやすい保険のひとつです。
解約時(4~7年後)に大規模修繕を予定していると、逓増定期保険を使うメリットが大きくなります。
法人から個人への還流手段として、解約返戻率が低い時に個人へ名義変更するなどでさらなる節税が可能となります。
デメリットとしては、
- 解約返戻金が高率になる期間が短いので解約を忘れると損失が大きい
- 解約返戻金は雑収入計上となるため、使い道を考えておかないと、その時の税率で課税され単なる税の先送りにしかならない
などがあります。
ガン保険
ガン保険はガンと診断された場合に、その入院費用、手術費用、通院費用などを保障し、ガンと診断されたら一時金が給付される場合が多いです。
法人での契約の場合は、保険期間、保険料払込期間が終身の場合は、支払った保険料の全額が損金として計上できますので、従業員の福利厚生として加入しながら財務基盤強化対策にも活用できる保険です。
保険期間
終身のものや、定期10年、20年もあります。
解約返戻金
解約返戻金はないものが多いですが、保険料払込期間を終身以外にした場合は解約返戻金が発生するものがあります。
税務上の取り扱い
- 解約返戻金なしの場合:支払った保険料は全額損金計上できます。
- 解約返戻金ありの場合:前半期間は1/2が損金計上、後半期間は前半期間の1/2と支払い保険料の全額を損金計上できます。
保険金の受け取りのポイント
法人では雑収入となってしまうため、保険料払込期間が終わったら、個人の名義に変更しておくと保障内容を個人に引き継ぐことができます。
法人で全額損金で経費計上して、個人へ保障内容を移管するので、個人への資金還流手段として使われています。
ガン保険のメリット
- 保険料を1/2損金計上できる
- 不動産投資家の入院による売上減少などを補う
などの効果があり、保険料支払いが終了した時点で個人に名義変更すると、その後保険料を支払わずに保障を受けられるなどのメリットがあります。
個人でガン保険に入る予定やすでに入っている人は、法人名義でガン保険に入るメリットは大きいので検討する価値はあります。
養老保険
養老保険とは満期保険金のある貯蓄性の高い保険です。
契約期間中の死亡保障と、満期時に満期保険金を受け取る二つの機能を併せ持った生命保険です。
- 保険期間中に亡くなった時
- 保険期間満了まで生存した時
どちらでも同じ金額の保険金を受け取れる保険です。
法人では従業員の福利厚生プランとしても多く活用されています。
保険期間
養老保険の保険期間は、契約時の年齢によって異なりますが、5~30年満期や55歳・60歳・65歳満期などがあります。
契約時の年齢によって選択できる保険期間は限られ、若い人のほうがより長い保険期間を設定できます。
解約返戻金
養老保険の保険料は将来の満期保険金の支払いに備えた積立部分が含まれているので、解約返戻金も契約開始直後からも設定されている場合が多くあります。
契約期間経過年数が長いほど解約返戻率が高くなるように設定されているので、早い段階での解約は返戻率が低くなります。
解約返戻金の取り扱い
前払い保険料を差し引いた金額が雑収入となります。
1,000万円の保険料を払った場合は、50%分が前払い保険料として資産計上されています。
解約返戻金が保険料の100%の場合、
解約返戻金=1,000万円-500万円(資産計上分)
となり、500万円が雑収入扱いとなります。
税務上の取り扱い
1/2が損金として計上できます。被保険者は全従業員です。
死亡保険金の受け取りを被保険者の遺族(従業員の遺族)とした場合、福利厚生として使えて50%を福利厚生費として損金扱いができます。
長期平準定期保険
長期平準定期保険とは、定期保険の中でも特に長期の保険期間を設定するものです。
保険期間が非常に長い掛け捨てでありながら、100歳まで掛けられるため、終身保険に近い死亡保障が得られます。
定期保険のため満期保険金はないものの、解約返戻率が徐々に高くなるため万が一の準備資金や役員退職金の準備としても利用されることが多い保険です。
保険期間
長期平準定期保険の保険期間は非常に長く、100歳満期といった長期の保険期間が可能となっているので、実質的な死亡保障をつけることができます。
解約返戻金
長期平準定期保険の場合、保険期間の前半に解約返戻金が徐々に積み上がるため、逓増定期保険のように5年で90%の返戻金は不可能だが、10年以上に経過していくと解約返戻金が高まり、長期間にわたり高水準の解約返戻金が維持されるのが特徴です。
保険加入後10~15年以上の長期間経過すると支払った保険料の100%に近い解約返戻率になる場合も多いので、50歳前後の不動産投資家が、この特徴を利用して不動産投資家の退職金準備に活用すると無駄が少なくなる場合があります。
解約返戻金の取り扱い
前払い保険料を差し引いた金額が雑収入となります。1,000万円の保険料を払った場合は、50%の500万円が前払い保険料として資産計上されています。
解約返戻金が保険料の100%の場合、
解約返戻金1,000万円-資産計上分500万円=500万円
となり、500万円が雑収入扱いとなります。
税務上の取り扱い
支払った保険料の1/2が損金計上できます。
長期平準定期保険のメリットとデメリット
メリット
- 長期で1/2の損金計上ができる。
- 長期間簿外に資金を強制的にためておくことができるので、リスク発生時に資金を捻出することができる。
- 解約返戻金を担保に借り入れ打診も可能。
デメリット
- 早く解約した場合の解約返戻金が低いので早期に解約しにくい。
- 解約返戻金の返戻率が上がるのが長期間経過後なので、古い物件などを保有していて修繕需要がある場合には活用がしにくい。
- 簿外に大きい資金があっても評価する銀行とそうでない銀行もあるので、流動性の低さがマイナスに作用することも。
定期保険
定期保険は死亡保障を目的とした掛け捨ての保険で、保障を受けられる期間が決まっているものです。
一定期間の掛け捨てだが、割安な保険料で大きな保障を受けられるという特徴があり、不動産投資家に何かあった時の保障をベースに考えておくものになります。
保険期間
定期保険の保険期間は、1年から長いもので100歳までというものまであります。また、短い保険期間を設定し、保険期間の満了とともに保険期間が自動的に更新されるという更新型もあります。
解約返戻金
定期保険の解約返戻金は、保険期間によって異なります。保険期間が短期のものいついては、解約返戻金はほとんどなく、掛け捨てとなります。
税務上の取り扱い
定期保険は満期保険金のない掛け捨ての保険です。
長期平準定期保険や逓増定期保険に該当しない場合、全額損金計上が可能です。
定期保険のメリットとデメリット
メリット
- 全額損金計上できる。
- 不動産投資家が亡くなった時のリスク回避となる。
デメリット
- 掛け捨てで貯蓄性や解約返戻金がない。
- 簿外に貯蓄ができない。
収入補償保険
収入保障保険は不動産投資家が万が一死亡・高度障害の際に一時金ではなく、給料のように毎月定額の年金給付タイプと一時金が会社に支払われるタイプがあります。
確定年金タイプ
保険期間中いつなくなっても一定期間の年金が確保されているものです。
例えば保険加入後すぐに亡くなっても月額50万円が10年間支払われ、保険期間終了の直前に亡くなっても月額50万円が10年間支払われます。
ローン返済が残っている場合などに、安心のためにローン返済額の一部にあてるなどの目的で活用できます。
満了年金タイプ
保険期間の終了時点まで年金が支払われるものです。
たとえば保険期間25年の場合、保険加入後すぐに亡くなった場合は月額50万円が25年間支払われ、保険加入後24年経過後に亡くなった場合は1年間だけ支払われます。
解約返戻金
ありません。
保険期間
5年・10年・15年・30年満期や55歳・60歳満了などがあり、契約時の年齢によって選択できる保険期間は限られます。
税務上の取り扱い
全額損金計上が可能です。
保険金の受け取り
保険金の受け取り全額が雑収入扱いとなります。
収入保障保険のメリットとデメリット
全額損金できるメリットはあるものの、掛け捨てで貯蓄性や解約返戻金がないので、不動産投資家が亡くなった時の金銭的なリスク回避に役に立つものです。
借り入れしているローンの金額と年数が合致すれば、不動産投資家が亡くなってもローン返済を続けることを目的とすればメリットがあります。
どちらかというと。個人で収入保障保険に入ろうと考えていた人が、法人で掛けたほうが全額損金にできるメリットを享受したい人向けとも言えます。
医療保険
医療保険とは病気になったときに、入院時の費用や手術費用、通院費用を保障するための保険で、公的医療保険では足りない部分を補う役割も持っています。
保険期間
終身のものや、定期10年、20年のものもあります。
解約返戻金
解約返戻金がないものが多いですが、保険料払込期間を終身以外にした場合は、解約返戻金が発生するものもあります。
税務上の取り扱い
- 解約返戻金なしの場合:全額損金計上できます。
- 解約返戻金ありの場合:前半期間は1/2が損金計上、後半期間は前半の1/2と支払い保険料の全額を損金計上できます。
保険料の受け取り
法人では雑収入となりますので、法人での保険料払込期間が終わったら個人名義に変更しておくと、保障内容を個人に引き継ぐことができます。
法人で全額損金で費用計上して、個人へ保障内容を移管するので、個人への資金還流手段として使えます。
医療保険のメリット
支払い保険料の1/2を損金計上でき、不動産投資家の入院による売上減少などを補うことができるメリットがあります。
保険料支払いが終了した時点で個人に名義変更するとその後保険料は払わずに保障が受けられるメリットもあり、個人で医療保険に入る予定やすでに入っている人は、法人で加入すると節税としてのメリットがあります。
終身保険
終身保険は保険期間の定めのない一生涯の保障が確保された保険で、必ずいつかは保険金が支払われるので保険料は割高となります。
保険期間
終身保険ですので保険期間は一生涯です。
保険料の払込期間は短期間のものもあります。
解約返戻金
解約返戻金は高水準です。
保険加入後に何十年か経過すると支払った保険料を上回る額になる場合もあります。
税務上の取り扱い
必ず保険金を受け取れる貯蓄性の高い保険であるため、支払い保険料は全額資産計上となり、節税のまったくできない保険です。
解約時・死亡時の保険金
雑収入となりますが、支払い保険料が資産計上されていたため、
受取保険料-支払保険料
で計算され、雑収入は高額にはなりません。
終身保険のメリット
資産計上できるので銀行から見ても決算上の問題がないことや、貯蓄性のものなので定期預金に死亡保障がついているような保険という面でのメリットがあります。
法人の資産運用向きであり、事業承継用の資金確保などといった場合に使われることが多いようです。
まとめ
- 逓増定期保険は損金計上できる割合が高いものを選び、解約返戻金が高率になるタイミングで解約し、あらかじめ使い道を決めておくことがポイントとなる。
- ガン保険は法人で加入することで全額もしくは1/2損金計上でき、個人への資金還流手段として使われることが多い。
- 長期平準定期保険は不動産投資が安定し利益が多く出るようになった場合に、逓増定期での節税以外に役員退職金や不動産投資家の死亡リスクなどを考慮した場合の対応がメインとなる。
- 定期保険は全額損金計上できるものの、長期平準保険や逓増定期保険などのほうが1/2損金ではあるものの簿外に貯蓄ができる。
- 収入保障保険や医療保険、終身保険などは個人として加入を考えていたりすでに加入している人は、法人で加入して支払い終了後に個人名義に切り替えることで、節税対策となる。